PARKER  LUCKY  CURVE

  1920〜1928年頃販売

(リングトップの女性用も数多く販売されていた。)

         


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世紀末、ジョージ・サンフォード・パーカーは試行錯誤を繰り返した末に、画期的なインク供給機構を開発した 。このことはすでにParkerの歴史のところで述べてきた。1888年に「ラッキー・カーブ・ペン」と命名した万年筆を発売することに なった。その1892年 に、アメリカ、ジョーンズビルにパーカー社を設立した。そして、Parker社は、1920年にはこれまで黒一色だった万年筆の世界にオレンジ色を持ち込 んだ。これには世界の万年筆ユーザーに衝撃を与たことは、皆さんもよくご承知のことです。
 今回は、1920年代に女性用として開発されたリングトップを中心に紹介する。
 

「マーブルのSPとFP」 「Ladyと刻まれている」 「全てボタンフィラー」


 
1926年から1928年に「Parker  Lady  Duofold  Lucky  Curve」と命名したひすい色の「マーブル」模様 の万年筆を製作販売した。女性用ではキャップにクリップを取り付けず、天冠に金張りのリボンリングを取り付けてある。ネックレスや首から提げたリボンに取り付けられるようにしたものである。
 この当時のリングトップ万年筆のキャップには、様々な幅の金張りのバンドが付けられていた。上の写真のでは2本のキャップバンドが付けられている。しかし、下の写真に見られるように、Blackではベルトは無 い。茶色では1.3mm(1/2インチ)幅の 広いバンドが付けられている。最終の写真にある「
Lapislazuli 」では3本のバンドが取り入れられている。
 この「マーブル」の胴軸(バレル)に刻まれている文字は、「GEO.
S  PARKER  Lady  DUOFOLD  FOUNTAIN  PEN」とある。また、上の中央の写真にあるように、リボンの絵の中に「 Lucky  Curve」と彫られている。
 

「BlackのLucky Curve」 「Ladyの文字がない」 「茶色のLucky Curve 」


 インクの充填は胴軸(バレル)の後尾にある小さなキャップを外すとボタンが出てくる。ペン先をインクボトルに差し入れて、押したボタンを放すことでインクを吸入する 。Parker Penは、これをボタンフィラー方式と呼んでいる。胴軸(バレル)の中にはインクを貯蔵する墨袋(ゴムサック)がある。このゴムのために胴軸(バレル)部分が変色反応を起こし、バレルの色が変ってしまっている。特に、薄い色の胴軸(バレル)ではその影響が顕著に表れている。
 
「Black」のLucky Curveは、1925年から販売された。この万年筆は Clip lessのボタンフィラーである。「マーブル」より1年前から製造されていた 。この万年筆自体は黒い硬質ゴム製である。そして、キャップにはバンドが取り付けられていない。従って、1918年頃に製作された「Parker Jack Knife」のラインで製作されたのではないかと思われる。
 この万年筆の特徴は、本体に模様が入っていることである。キャップやバレルの周囲6カ所に4本の平行な彫り込み模様がある。この万年筆のサイズは、キャップを閉じた状態 で長さは
11.6cmである。 この長さが、リングトップ (ringtop)の万年筆や、当時の「Diofoldo 」のジュニアーなどと全て同じ(11.5〜11.9cmの範囲)である。しかし、胴軸(バレル)に刻まれた文字に「Lady」とは彫られていない。このことから、男性も鎖につけた万年筆を首からかけて、スーツの胸ポケットに格納する使い方をしていたとも考えられる。
 

「茶色のバレル文字」 「lapislazuli のセット」 「若草色Lucky Curve FP」「小豆色Lucky Curve SP」

 茶色の
Lucky Curveは、胴軸(バレル)に彫り込まれた文字から推察すると、キャップバンドの1/2インチの幅の広い方は1920年初期のものである。胴軸(バレル)には、下の写真のように、「Parker ”D.Q”」なる文字が入っている。
 これら「Lucky Curve 」の「Clip less」とか「リングトップ」がたくさん売れたようである。さらに、新たな素材の開発が進められたのである。上の写真中央の
Lapislazuli 」はカナダ工場で作成されたものである。(青の4本の項で紹介済み)
 若草色の丁度竹の繊維のような模様の入った右端上の
「Lucky Curve」は、他の万年筆より直径で1mm程細い。その下の小豆色で竹の繊維のような模様の入ったシャープペンシルも同年代のものと思われるが、調査中であり現段階で正確な製造年代は不明である。
 
「Green のクリップセット」 「胴軸の彫り込み」 「1920年代の製品」

 クリップの付いた万年筆の方も、様々な新しい素材が導入された。Parker社のこうした開発が、黒一色の万年筆の世界からカラフルな時代へ変えていった最先端を担っ ていたといえる。
 1926
年に販売した万年筆は緑色の「Lucky  Curve」で、キャップバンドはGoldで ある。形状は「Duofold」の原型と言えるものである。それは、どっしりとした風格のある形の万年筆となっている。しかし、
あくまでもLucky  Curve」であって、「Duofold」の文字は彫り込まれていない。
 インクフィラーは「Button
フィラー」方式で、ペン先(Nib)にも「PARKER  Lucky  Curve」としか刻まれていない。ボディー サイズは「Duofold Jr」サイズである。これまでの「Parker  Lady  Duofold  Lucky  Curve」より胴軸の直径は1mmほど太い仕上がりである。
 
「首軸の変化」 「ペントップのリング」 「Nibの様子」

 
 この「
Lucky  Curve」万年筆の10年間弱の販売で、改善がなされたのは首軸(セクション)の形状である。初期の直線的なごつさが無くなり、曲線的なラインが導入されてきている。
 リングトップの形状もリングの形が三角、円、楕円など様々な形が使われてきた。ペン先(Nib)はほぼ同じ物が使われており、裏から見るとペン芯がクリスマスのツリーのような形状をしている。「クリスマスツリーのペン芯」と愛称で呼ばれるほどの人気で、高性能を発揮したペン芯である。
 この
「 Lucky  Curve」万年筆のデザインは、何と言ってもペントップとボトムの黒色で引き締まったものとなっている。ちなみに、「Buttonフィラー」のキャップを外してみると何とも落ち着かなくなる。早くインクを入れてキャップをしたくなるのである。この当時のPen topやButtonキャップはエボナイトという素材で作られていた。経年変化で黒が茶色に変色してしまっている。本来の黒であればもっときりっと引き締まった万年筆であると思う。
 

       
「ボタンフィラーキャップ」 「1920のオレンジ」 「1929のlapislazuli」

 追 加 (08-05-05)  

「Gold Fill の仕様」

「11センチサイズ」

「全体の構造部品」


 硬質ゴム(ベークライト)の黒一色から、カラフルな製品が開発された。いろいろな模様や新しい素材の製品が販売されるようになった。そんな中で、貴金属を用いた高価な製品も多く作られてきた。Parker社の技術開発はこうした貴金属の 導入についても進められた。20世紀前半の頃では金張りの技法が主流であった。上のラッキーカーブは、真鍮に金張りをしたリングトップである。
 

「ペン芯」

「バレルとインクフィラー」

「ボタンフィラーバネ」


 当時、画期的な発明であったペン芯とインクフィラーの機構は、大変シンプルな構造である。
 インクを吸い込み格納する方法は、
@ ペン先をインクボトルに差し込み、バレルエンドのボタンを押す。

A
 バレル内にあるボタンフィラーバネがインクサックを押しつける。
B インクサック内の空気が押し出され、インクサック内の圧力が下がる。
C ボタンを放すと、インクサックが元に戻るためペン先からインクを吸い上げる。

 このように、「ボタン フィラー」は、比較的に動作部分が少ないので故障も少なかった。1920年代の製品でインクサックの劣化は致し方ないが、ボタンやバネ板などが現存しているものが多い。このことからも重宝な機構であったようである。
 

「キャップのインプリント」

「リングトップ」

「バレルエンド」


 当時のデザインも大層洗練されていて、現代でも通用する。今回の「Gold-Fill」 タイプではキャップ、バレルに切削による模様が施されている。それが、この万年筆を一層高級感を醸し出していると思う。金張り加工も100年経過しているが、未だ艶やかであり良い仕事がなされた製品であるといえる。
 

「ボタンフィラーキャップ」

「貴賓のあるデザイン」 「リングトップ」