万年筆は、お椀や重箱とは違って、細くしかも円筒状である。従って緻密に美しく描き上げられた蒔絵万年筆は、もう美術品であるといる。「老松」は風格、重厚さと共に優美で流れるような絵であ
る。それはまた、控えめな金色の輝きで、日本の自然を最も端的に表現している。Parker社の1921年から営々と製品開発に努め、磨き上げて来た万年筆の「Duofold」に、
新たな息吹を注ぎ込んだ。それは400年の伝統を有する加賀蒔絵の高度な漆技術を導入したのである。そのために、Parker社は卓越した技量のある作家
を選定した。この作家の精魂込めて仕上げた万年筆が、今回紹介する蒔絵「老松」(Oimatsu)である。
初期の蒔絵シリーズの作者は「東藤達也」作の制作によるもので、日本の風情を物語る植物が題材となっている。
この蒔絵万年筆の制作には、ほぼ1ヶ月半を費やした作業行程によりキャップ、セクション(首軸)バレル(胴軸)に加賀蒔絵を仕上げるのである。作業工程は、
「針切り研出し技法」を用いた作業では、
それぞれの部分に漆を塗り、金粉を細かく播く。そして、針を使って漆の地を出すところを丁寧に削り取る。金粉の所には色漆を塗る。それが乾いたら、砥石で磨き出すと、下の金地が浮かび上がって
くる。そして、色漆と金の調和のとれた美しさが引き立ってくるのである。加賀蒔絵では最高の技法と言われており、東藤達也氏はこの技法の第一人者である。
「老松の高蒔絵」の作業では、
下絵に基づいて文様をほどこして、その部分だけ肉上げ
する。そして、その上に平蒔絵を施して立体感を出す技法で、金粉や金箔がふんだんに用いられる。
「磨き仕上げ」の行程は、
最後の仕上げ行程である。高蒔絵が終わった段階のものの上から全体に漆を掛ける。そして、研磨剤を使ってきめ細かに磨き上げていく。表面にツヤが出てくるまで磨き込み、更にその上に生漆を使って擦り込
む。それで、万年筆は傷の着きにくい状態に仕上がる。最後にもう一度、つや出し剤を使って仕上げの磨きをほどこす。
それぞれの行程に二週間ほどの作業期間を必要とする。一ヶ月半ほど掛かかってParker Penと加賀蒔絵の合作「老」(Oimatsu)が完成するのである。
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