ブラッド・ブラザーズ感想のみ 

2003.10.19昼の部  於青山劇場

 

 最初に、これから書く自分自身への、戒めのためにも一言。
 私は、V6よりも小劇場演劇の方が高級だとは決して思わないし、逆に小劇場演劇よりもV6の方が素晴らしいとも思わない。
 ただ、昔20代前半の頃、小劇場演劇に興味を持ち、300公演ほど観た経験がある。
そして今はV6が大好きな、41歳の地方在住主婦である。
 そういう私が、大好評の坂本くんの演技観たさに、期待にはちきれんばかりになって、片道3時間の距離と、痛い出費をものともせず、渋る家族を説き伏せて、観に行った。

 それが、東京公演楽日・昼の部の 「ブラッド・ブラザーズ」。
(座席は、ステージ全体が見える、1階席後方上手寄りサブセンター。)

 始めに階級ありき、のイギリス社会。
ライオンズ夫人のジョンストン夫人への、蔑みがいたたまれない。
「一人ちょうだい」 と勝手なことを言っておきながら、毎日そばに居られるという約束を無残に反古にして、少しの手切れ金を渡して解雇する理不尽さ。
夫に弁明するのに、「あの人から病気が移るとイヤなの」って、あまりにも失礼なんじゃありません?

 ジョンストン夫人って、愚かなの?
ただ、お人好しだっただけじゃないの?
7人も子どもを産まされた夫に、簡単に捨てられるのは、愚かだからなの?
夫が、ひどい奴だからじゃないの?
生活に追われながら、最後に生まれた双子の赤ちゃんに、あんなに深い愛情を注げる母親が、愚かなわけがないと、私は思う。
カタログで購入した商品は、お金が払えないと没収されるだけではなく、よく知らないけどブラックリストに載って信用を無くし、もう簡単には購入できなくなるのではないかと思うんだけど?
 それでも、儚い夢だと分かっていても、なおかつカタログで手に入れずにはいられない悲しさが、そこまで追い込まれる貧乏が、泣ける。

 子どもたちが同じイタズラをしたのに、貧乏人の家と金持ちの家とで、こうも態度が異なる警官というのも腹立たしいが、人間とは、世間とはそういうものかも知れない。
 それにしても、イギリス社会というのは、階級の低い人たちから高い人たちへの、理不尽さに対する怒りはないの?  なんだか諦めてしまってるみたいな印象を、この芝居から私は受ける。 そして落ち着いてしまっているみたい。 日本だったら、ブーイングの嵐だろうにと思う。
 強盗殺人を犯した兄が逃げ、
「撃った、人を撃った・・・
 撃たないって言ったのに、脅すだけだって言ったのに・・・」
と、呆然とすくむ見張り役が逮捕され、懲役7年って、ひどい話じゃない?
 イギリスは、正義を守る民主主義国ではないの?

 ライオンズ夫人は、なぜ、見せなくていい、リンダとエディの逢瀬をミッキーに見せたの?
ミッキーに、どこか遠くへ引っ越してもらいたい一心から?
 ミッキーは、なぜリンダではなく、エディに銃口を向けたの?
エディへの、子ども時代から無意識に積もる嫉妬が、積もり積もって限界を超えたから?

「どうして俺をやってくれなかったんだ。そしたら、俺がアイツになれたのに」
産み育ててくれたた母親に向かって、そのセリフが最後とは・・・。
そして暴発した銃弾が、たまたまエディの心臓を貫いてしまうとは・・・。
悲し過ぎる。

でもね、ミッキー。 違うんだよ。
環境が変わっても、キミはアイツにはなれない。
どんな状況下でも、キミはキミ。
今までの、全てがあったからこそのキミ。
だからこそ人間は、一人一人みんなが素晴らしいんだよ。

そうやって、私自身にも言い聞かせる。

 目には見えないし、実感する人も少ないかも知れないけれど、人を生まれながらに差別する階級社会は、日本にも厳然と存在する。
 都会では、割りに機会が平等かも知れないが、田舎ではかなり不平等だと思う。
と言うより、人は生きてコミュニティを形成する限り、何かしら差別(優先順位)をつけずにはいられない生物なのだろう。
 強いところへすり寄って行き、弱い者を虐げる性ゆえに。

ミッキーとエディの可愛さが清涼剤となって、この重い悲しみを、澄み切ったものにする。
 役者たちが日に日に成長して留まるところがないという、このカンパニー。
きっと、それは、演出家が優れているからだろう。
 あまりにも実力ある脇役たちに囲まれていたので、坂本くん、主役としては正直、一番実力が劣っていた。
 でも、持ち前の清らかさが、生かされていたと思う。
無邪気で繊細なミッキー、薄倖で夭折した清らかな生命が、とてもとても、愛おしい。

(2003.10.22UP)


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