演劇集団
キャラメルボックス
に関する私見
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2008.1.16  菅野良一という役者

 「風を継ぐ者」(1996年・2001年)という作品がある。
 剣も弱く学もないが、健脚であることだけが取り得の、真っ直ぐな新選組隊士(架空)の物語である。
 しかし、観終わった観客の心に残るのは、おそらくは土方や沖田など、短い光芒を放って駆け抜けていった実在の人たちの命。
 称えもせず、非難もせず、ただただ彼らの気持ちや想いに寄り添った、
 見事な、新選組へのオマージュ的作品に仕上がっている。
 
 この作品で、沖田総司を好演したのが、菅野良一である。
いや、好演などという生易しいものではない。
目からうろこが落ちるような、思わず「これだよ!」とヒザを打ちたくなるような、瞠目すべき沖田であった。

 司馬遼太郎が、小説『燃えよ剣』(1962年)で、非常に魅力的な沖田を創出して以来、活字やコミック・映像・舞台などで、星の数ほど数多の沖田総司が生まれたが、この菅野良一の沖田ほど、私の琴線に触れたものはない。

 愛媛大学農学部卒業後、北海道大学大学院で博士単位習得後もなお現在、大学院で地球環境学の研究を続ける38歳。
 年に1〜2回、キャラメルボックスの舞台に立つ。
 明るく優しく、可愛らしく面白い個性で、沖田を始めとして、天使や、宮沢賢治作品の主人公など、突き抜けて清らかな役が、ピタリとはまる役者である。



2007.6.29  「さよならノーチラス号」1998

 今、動画配信されている。→第2日本テレビ第2キャラメルボックス
 これは、まるで12歳以上を対象とし、もちろん大人も楽しめる、というより、大人こそ観て感じ取ってほしい、上質な児童文学のような作品である。
 加藤Pの、中学教師から叩き上げて最終的に国立大学学長になられた、根っからの教育者であるという父上は、キャラメルボックスの芝居を観て、
「お前たちは、教室で1年かかっても教えられないことを、
 たった2時間で、見事に伝えている」
とつぶやいて、加藤Pが生涯をキャラメルボックスに捧げることを、許可してくれたそうである。

 まさしく、この成井豊の自伝的作品「さよならノーチラス号」を観ると、同じことを思う。
 全国の小・中学校で、子どもたちに見せてほしい。
 そうすれば、悪質ないじめなんか、激減するのではあるまいか。
 子どもたちは、みんなそれぞれ自分では抗いようのない境遇の中で、歯を食いしばって、生きている。
 私たちは、そのことを、決して忘れてはいけない。



2007.6.11

 5月末より、キャラメルボックスのSNS、というものに入会した。
これは、劇団員やスタッフ、サポーターたちばかり3000人ほどで作る、インターネット内での仮想の町という感じだろうか。
 会員の全てに、それぞれ1件の家(部屋)が与えられ、そこでプロフィールや日記を書き、訪問者とコメントのやり取りをする。
 気の合った人とは、「お友達になりませんか」と申し込んだり、申し込まれたりして、お友達になる。
 また、コミュニティという集会所があって、そこで集まって、テーマを話し合ったりする。
入会した最初のうちはどうすればいいか分からず、右往左往していたが、気持ちの良いコメントのやり取りを経験すると、もう楽しくなって、すっぽり嵌り込む。

そこに入り浸って、キャラメルボックスのことを話し尽くしてきたので、自分のHPがまたもや疎かになってしまった。
・・・すみません。



2007.5.28   「俺たちは志士じゃない」1994

 スカパーで観た。
もう解散してしまった、惑星ピスタチオという劇団との、フューチャリング公演である。
 ピスタチオの俳優たちの強烈(まさしく小劇場的)な個性の前には、近江谷太朗でさえ影が霞む。
しかしだからこそ、それがキャラメルボックスのカラーなのだろう、と思う。
 本物の桂小五郎であることは、「どぶ底に〜〜」のキメ台詞の直前に、直感した。
観る者にそう直感させた、西川浩幸の迫力ある演技に、拍手。

 上川隆也は出演しない。
始めのうち退屈しかかったが、中盤からぐいぐい引き付けられた。
終盤の盛り上がりはすさまじく、爽快だった。

 岡田達也の土方歳三・菅野良一の沖田総司、なかなか良い味がある。



2007.5.24   「ヒトミ」1995

 さしあたってスカパーでの放映予定が遠い「TRUTH」と「ヒトミ」のDVDを購入。
一枚ずつじっくりと鑑賞。・・・いずれも涙腺が大決壊する。
 これまで私が鑑賞したキャラメルボックス作品は、「サンタ〜」「太陽〜」と合わせて、4本。
どれも素晴らしい作品だが、私は、この「ヒトミ」が一番好きかも知れない。
世界中のあらゆる芸術のうち、小劇場演劇でしか、それもキャラメルボックスにしか、表現不可能なアートが、ここに展開される。
 坂口理恵の体当たり演技に、胸打たれる。まさしくガラスの仮面のマヤのようだ。
 俳優が、本当に真摯に役と向き合うとこうなる、というのを教られた気がした。
 坂口の気迫に引っ張られて、全員が名演し、そのチームワークが、大きな感動の波を呼び起こす。
 


2007.5.18   「太陽まであと一歩」2003

 なんとこちらで、動画配信が始まった。→第2日本テレビ第2キャラメルボックス
一体、加藤プロデューサーの頭の中は、我々一般人の何年未来を行っているんだ?

「サンタ」は映画の登場人物が、現実世界へ飛び出してくる物語だったが、
この「太陽まで」は逆に、主人公たちが映画の世界へ入っていく物語だ。
いずれも、そのくらい誠心誠意で役者は演じている、という隠れ(?)メッセージ。

岡田さつき、すごい。完全に64歳のおばあちゃんに見える。
上川隆也も、30代の大学助教授に、違和感なく見える。
何より、この劇団の演技力には、舞台全体を安心して観ていられる何かがある。
大切にすべきものを大切にする、という現代人が見失った、基本的な何か。



2007.5.15   「サンタクロースが歌ってくれた」1997

 スカパーのシアターテレビジョンで、深夜放送されたものを録画した。
初見で、テンポが早過ぎると感じたのは、私が年を取ったせいだろうか。
何回も、繰り返し観た。
明るく楽しく、切なく苦しく、爽やかで前向きな舞台。
毎回同じところで笑い、泣き、ワクワクし、胸がキュンとなる。
俳優たちは、全員上手くて、魅力がある。

成井豊の、芥川龍之介へのオマージュ。
才能が豊潤であったからこそ、他人には理解できない深い苦悩。
クライマックスである屋上と地上での絶叫シーンは、何度観返しても滂沱する。

上川隆也には、やはりずば抜けた才能を感じる。
しかし、他の俳優たち、近江谷太朗や大森美紀子、細見大輔なども良い俳優だと思う。
いや、全員上手い。
舞台上、何も無い空間なのに、本当に自動券売機で切符を買っているように見えた。
本当に駅のホームに、タクシーの中に、TV局のロビーに、寒い屋上に、そして電車が動いていくように、舞台の空気が変わったのは見事だ。
成井豊の急病のため新作が間に合わず、急遽代替として2週間で作り上げたとは、とうてい信じ難い完成度の高さ。

俳優の上手さにつられて、何度でも観返したくなる。
そして、共感できるファンタジー。
好きな芝居だ。

外部リンク・・・ 「キャラメルボックスの公式HP」
製作総指揮のブログ「加藤の今日」



上川隆也について


 NHKで日中共同製作ドラマ『大地の子』が放送され、日本中に感動の嵐を呼んだのは、1995年のことである。
私の両親も、熱心に
「お前もぜひ観るといいよ。上川隆也っていう、すっごく良い新人俳優が出てきてね」
と、勧めてくれたものだが、当時育児で心の余裕が今より一層無かった私は、テーマの重苦しさも相まって一顧もしなかった。(←あぁ、後悔。バチが当たったのだ)
 私が、彼の演技を初めて観たのは、なんと11年以上が経過した、今年の1月。
 昨年の大河ドラマ『功名が辻』の総集編を観てである。
上手い俳優だな。強く引き付ける何かを持っている俳優だな、と思った。
司馬遼太郎のイメージが壊れるのを恐れて観なかった『功名が辻』であったが、思いのほか総集編が良かったので、本編も観たくてならなくなり、思い切ってDVD集を購入した。
 『功名が辻』完全版は、充実度が高く、面白かった。
 しかし山内一豊は凡庸過ぎて、上川が本来持っている才気や感性を100分の1ぐらいに抑えているように見えた。
 この人が、本領発揮している作品が観たい!
そこから、私の上川隆也を辿る旅(?)が始まった。

インターネットで検索し、プロフィールを読んで意外に思った。
お芝居出身の人だというから、てっきり文学座とかテアトルエコーとか、有名劇団だとばかり思っていた。
 キャラメルボックスぅ?あんまり聞いたことないな。
 その前の演劇集団って何?なんか軟弱そうだな。(←すみません、無知で)
所属事務所には、もっとびっくり。
 Me&Her?(絶句)・・・ミーハーってあなた・・・上川以外、全員知らない名前だし。
彼のイメージや著名度・実力からして、てっきり大手事務所に所属する正統派劇団員だと思い込んでいた。(←なんじゃ、そりゃ?)
 だが!
後から知るのだが、この思いっきり弱小そうな所属事務所と所属劇団こそが、まさしくキーだったのだ。
世間一般でこそ有名ではないが、演劇界では名高い、台風の目「演劇集団・キャラメルボックス」。

インターネットで上川ファンのブログを訪れると、過去のインタビューや語録などを教えてくれる。
 それを読むと、読書好きで聡明でとことん謙虚な人柄が、浮かび上がってくる。
驚くべきことに、このイメージは、いつのどこのどんな記事を読んでも、終始一貫崩れることがない。
今の時勢に、不思議な人だな、と思った。

 しかし、キャラメルボックスの舞台作品を観、その世界観に触れ、製作総指揮・加藤昌史の著作を読み、キャラメルボックスのことを深く知ると、やがて、全ての疑問は氷解してゆく。
    上川隆也の、根幹にあるもの。
    上川隆也の天賦の才を、育て、熟成させた土壌。
それが、キャラメルボックスだったのだ。



〜 テレビドラマ出演作の感想 〜

上川隆也が出演した映像作品は、多数である。
その中で、比較的手に入りやすく、なおかつ代表作とも呼べるものから、順に観た。(正確には、手に入った順に観た)

 『白い巨塔』の関口弁護士。主演ではないが、かっこいい脇役。
第2部だけ観ると、財前・里見の友情に感情移入するので、関口のエピソードは邪魔に感じるが、第1部から通して観ると、関口の存在意義の大きさが分かる。

 『大地の子』の陸一心。セカンドクレジットながら、主演。
重さを覚悟して、腰を据えて観た。初登場シーンが、いきなり拷問の酷さを想像させるものだったので、びびった。だが、観ているうちにぐいぐい強く引き込まれた。さすが、20世紀最高傑作と称えられるドラマである。
 中国の国宝俳優・朱旭が演じる養父との、駅での再会シーンは、2人とも一言も発しないにも関わらず、神掛かった名演技で、観る者は滂沱である。
 どんなに過酷で悲惨な境遇にあっても、聡明な優しい心を失わなかった陸一心。真っ直ぐでしなやかな魂に胸打たれる。
   大戦終了時に満州に散った何万柱の人々の無念と
   生き残った数千人の残留孤児の苦難と
   育ててくれた養父母の慈愛。
本当に敬虔な気持ちになるドラマだった。

 『竜馬がゆく』の坂本竜馬。主演。
TBSの1997年正月SP5時間ドラマ。若い頃に愛読した、司馬遼太郎の原作を思い出す。
文庫本8冊に及ぶ内容を濃縮させたのはいいが、演出家の見せ場が偏っていた感があり、残念。
大政奉還は良かったが、最期の暗殺シーンなんか、あっさりとで充分なんだってば。
その分の時間を、海援隊の夢などに裂いてほしかった。
上川、土佐弁も流暢に好演しただけに、もっと時間をかけた大作で観たかった。

(2007.5.29up)