コックスはクルーの「目」「耳」

コックスを「掛け声」の係りと思っていませんか

●多人数で船を漕ぐ時には、必ず「掛け声」や「太鼓・鐘」などの合図がいるものだという中世の奴隷船的な発想は、根本から改めてください。
私たちが目指しているボート競技においては、漕手の動作を揃えるのは、漕手自身が練習の中で培うべきことだからです。
漕手同士が互いの動きを体で覚え、「整調」の動作に揃えます。(漕手の動作を揃えることを"ユニフォーミティ"と言います)

コックスの第一の任務は艇の「舵取り」です

●漕手の動作が揃っても艇がコースに沿って進むとは限りません。ボート競技は自然を相手にしたスポーツですから、横風もあれば、波もあります。また漕手の調子も常に同じではありません。バウサイド・ストロークサイドそれぞれに漕ぎの強弱を指摘して直進性を回復しなければなりません。
●(参考までに)早慶レガッタのような長距離レースでは、曲がりくねった川の中でどのようなコース取りをするか、これがコックスの大きな課題となるようです。

コックスの「指示」について(その1)

●艇をスタート位置に付けたり桟橋につける時には、コックスが両サイドの漕手に、前進、後退、停止を「指示」します。安全に素早く、的確な指示ができるよう練習しましょう。
●しかしながら、艇を後進させながらスタート位置に付く場合など、コックスが指示するより漕手に任せた方が良い場合もあります。状況に合わせて判断しましょう。
●スタート位置について、艇の方向をコースに合わせるための指示はコックスが行うしかありません。レース直前に漕手の体力を無駄にしないよう、ここでも的確な指示が要求されます。
●経験を積んだクルーはコックスの指示なしでも基本的な操艇を難なくこなすものです。そしてコックスの役割は、レース番号、レーン番号を間違えないことや、漕艇場の航行規則をよく理解してペナルティを受けないことが重点になります。

発声は「@漕手Aオール操作」を明確に

●漕手の指定は、
  • 1人の漕手を指定「バウ、2番、3番、整調」
  • 2人の漕手を指定「バウペア、ストロークペア、ミドルペア、エンドペア」
  • 全員に指示「オールメン」
●オール操作は、
  • 「バウサイド(右舷)、ストロークサイド(左舷)」
  • 「ロウ(前進)、バックロウ(後進)、ブレーキ(停止)」
●操作終了は「ありがとう」

コックスの「指示」について(その2)=レース中

●レースのスタートは、審判の旗を見て漕手が行います。
初心者のクルーは、スタート直後に艇がコースを逸れることがよくあるので、コックスは「舵取り」に集中してください。
●レース中の状況把握はコックスの目と耳だけが頼りです。
レースの組み立てをクルー全員でよく話し合い、スタートダッシュの数、足蹴りやラストスパートのタイミングなどコックスが指示すべき発声を決めておきましょう。
●現在、東郷ボートクラブではレースの中でコンスタントに漕ぐ時に、いわゆるコックスの掛け声は発声しないようにしています。漕手のユニフォーミティが確立していれば、不必要なことだからです。

「イージーオール」「イージー」

●ゴールしたら、コックスは「ありがとう」ではなく、「イージーオール」と発声します。
漕手は漕ぎを停止し、オールを水面から離して水平に保ちます。そして艇は惰性で進みます。この時、遅れてゴールしてくる他艇の進路を塞がないよう「舵取り」に注意してください。
●次にコックスは「イージー」と発声します。これはオールを水面に降ろせという指示です。
この指示によって漕手はレースの緊張から開放されることになります。しかし「イージー」と声が掛かってもレースはまだ終わっていません。審判艇が白旗を揚げてレースが成立するまで、競技艇はゴール付近で待機していなければなりません。
●レース成立後に桟橋に向かって漕ぎ出す時は、コックスから「ロウ(前進)」と指示してください。

漕ぎを揃える練習中のコックスの発声

●東郷ボートクラブ、東郷町ボート教室の中で推奨している発声は、漕ぎ始めに「ロウ」と一声だけです。
フォワード→キャッチ→ストローク→フィニッシュという一連の漕ぎのタイミングは「整調」の動きに各漕手があわせていかなければなりません。
漕手のフィニッシュに合わせてコックスは次の「ロウ」を発声します。
●東郷ボートクラブでは、「一本漕ぎ」と呼ぶ練習を推奨しています。
漕ぎを連続させず、次のフォワードに移る前に、「イージーオール」の体勢を保持する練習方法です。
この時コックスは、各漕手の体勢が整うまで、次の「ロウ」を発声しません。一漕ぎ毎に漕ぎのタイミングを確認する練習方法となります。
始めのうちコックスの発声間隔が長かったりしますが、漕手の動きが揃ってくるに従って、一本漕ぎは連続した漕ぎに近づいていくことになります。

練習中のコックスの発声、いろいろ

●ボートクラブになる前、中学校のボート部では「スレーイ、キャッチ」という発声を繰り返すのが主流でした。
フィニッシュ直後に「スレーイ」と言い始めて、「キャッチ」で揃えます。「スレーイ」の意味はよくわかりませんが、「キャッチ」を揃えようとする意図はよくわかります。ボート部の卒業生は大抵この方式です。しかし、この発声は「一本漕ぎ」の練習には不向きです。
●東郷町体指の関係者がよく使う発声に「キャッチ、ロー」というのがあります。
慣れた人は自然に「ロー、キャッチ」に変わっていくので「スレーイ、キャッチ」と中身の違いはありません。しかし、漕ぎが「キャッチ」で始まるという感覚は意識して改めるべきです。
漕ぎ始めの発声で「キャッチ」と言うのは用語としても間違いですし、漕手のばらばらな「キャッチ」に引きずられて「キャーーーチ」と長く発声するのもやめましょう。