第3章 画像評価



  1. 鮮鋭度評価法

     1.ニトカ法(Nitka method)

     ニトカ法は鮮鋭度評価法の一つで、不鋭面積法とも呼ばれ、エッジのX線像により不鮮鋭な部分の面積の大きさで評価する。

     2.Rudinger & Spiegler法

     Rudinger & Spiegler法は鮮鋭度評価法の一つで、鮮鋭度指数法とも呼ばれ、傾斜角度法と半値幅法を利用したものである。

     3.解像力法

     解像力(R)は解像力チャート像を観察して細線の分離の限界を認知し、その時の細線幅(d)の2倍の逆数をもって表される。

               1
         R= ────  [LP/mm]
              2d


  2. レスポンス関数による画質評価

     1.レスポンス関数

     レスポンス関数は画像形成に関する因子とシステムの鮮鋭度・解像度を評価する関数である。
     レスポンス関数自体は複素関数なので、その絶対値と位相をそれぞれ分けたときの絶対値のみをMTF(modulation transfer function)、位相のみをPTF(phase transfer function)、総合したときをOTF(optical transfer function)と定義されている。
     レスポンス関数は空間周波数特性である。
     レスポンス関数の理論を適用するには、その伝達系の入力と出力の間に線形が成立することが必要である。
     一般に矩形波チャートでのレスポンス関数を正弦波のレスポンス関数に換算する(正弦波応答)。
     レスポンス関数は点像または線像強度分布をフーリエ変換して求められる。
     フーリエ変換によって空間座標の関数と空間周波数座標の関数は、お互いに変換できる。
     レスポンス関数に影響する因子は、X線管焦点、増感紙、患者の動き、散乱線である。

     2.レスポンス関数の応用

     レスポンス関数は、X線管焦点の形状と画質の関係、散乱線量と画質の関係、増感紙−フィルムシステムと画質の関係、斜入射投影と画質の関係に応用される。
     線状陰影の辺縁描出能は、MTFにおける高周波成分の大小により評価できる。
     ディジタル画像のボケの程度もMTFで評価できる。

     3.レスポンス関数(MTF)の測定方法

     レスポンス関数の測定方法として、ウィーナースペクトルを利用する方法と金属チャートを用いて測定するコントラスト測定法および単一金属スリットをX線撮影し、そのフィルム濃度をフーリエ解析するフーリエ変換法の3方法がある。

     4.コントラスト測定法

     コントラスト測定法の測定手順は、
     (1)最初に矩形波チャートの撮影を行う。
     (2)得られた写真をミクロフォトメータで各空間周波数ごとの濃度分布の測定を行い、フィルム特性曲線によりX線強度分布に変換する。
     (3)各空間周波数ごとのコントラストより矩形波MTFを求め、矩形波MTFをコルトマン(Coltman)補正式より正弦波MTFに変換する。
     コルトマン補正を行うと補正前よりMTFは低下する。
     増感紙フィルム系の特性曲線が直線であると仮定しても、濃度−強度変換は行う必要がある。その理由は、露光量の対数表示のため線形が保たれないからである。
     チャート像のコントラストは空間周波数が高いほど低下する。
     チャート像の鉛箔部の濃度は、フィルムのベース濃度やカブリ濃度が生じるので総合カブリ濃度とする。

       

     5.フーリエ変換法(スリット法)

     スリット法の手順は、
     (1)金属スリットのスリット幅は約10μm程度がよく用いられる。
     (2)スリットを増感紙フィルム系に密着させてX線曝射する。
     (3)X線曝射条件は、2種類の濃度の異なるスリット像を得るために、高照射条件と低照射条件を用いる。これは、截断誤差(truncation error)を最小にするためである。
     (4)スリット像をマイクロデンシトメータでスキャンする。
     (5)得られた濃度分布の左右が対称であることを確認する。
     (6)フィルム特性曲線でスリット像の濃度分布をX線強度分布に変換する。
     (7)截断誤差を最小にするための補正をする。
     (8)フーリエ変換により、LSFから各空間周波数ごとのMTF値を求める。

     スリット像は高鮮鋭なシステムほど幅が狭い。
     スリット像のピーク部の幅が狭いほど高域特性がよい。
     スリット像のすそが広いほど低域特性は低下する。
     倍数露光法はスリット像のすその強度変換に使用する。

     6.MTF曲線の読み方

     MTFのグラフ上で右上方に位置する曲線は性能(鮮鋭度)がよい。
     MTFの表示値は0cycle/mmで1.0に規格化されている。
     一般に、1cycle/mmのMTF値の方が10cycle/mmより高い。
     X線撮影系のMTF評価では、2.0cycle/mmの特定空間周波数がよく用いられる。
     空間周波数0〜10cycle/mmの範囲でフィルムのみのMTFはほぼ1.0である。


  3. 粒状度評価法
     物理的粒状度の評価法には、RMS粒状度、自己相関関数、ウィナースペクトルの3つがある。

     1.RMS粒状度

     RMS粒状度(Root Mean Square)はフィルム濃度のバラツキを標準偏差値で表している。
     光子密度の統計的ゆらぎによる分散は、透過光子数の平均値にほぼ等しい。
     光子数が増加するにつれて統計的ゆらぎによる雑音の影響は小さくなる。
     RMS粒状度は、スクリーン・フィルムの粒状性の評価に用いられ、腫瘤状陰影の描出能の評価には不適である。
     RMS粒状度の値は、マイクロデンシトメータのアパーチャサイズで変化する。

     2.ウィナースペクトル

     ウィナースペクトル(WS, Wiener Spectrum)は画像の雑音変動を周波数解析する方法で、自己相関関数をフーリエ変換して求める。
     ウィナースペクトルにおいて、低空間周波数領域はスクリーンモトル(量子モトルと増感紙の構造モトル)が影響し、高空間周波数領域はフィルムの粒状度が影響する。
     ウィナースペクトルでは、空間周波数は粒子の大きさと関連がある。
     ウィナースペクトル値は面積の次元を持ち、値が低いほど粒状度は優れている。
     ウィナースペクトルの測定ではマイクロデンシトメータのアパーチャに縦長の細いスリットを用いる。

       
    [RMS粒状度曲線]    [ウィナースペクトル曲線]
     写真濃度分布に対応するウィナースペクトル曲線は、濃度分布の周期と振幅の大きさで推定可能である。
     写真濃度分布アでは、周期が短短いので高空間周波数域まで情報があり、かつ振幅が最も大きいのでWS値は最も大きくなる。よって、写真濃度分布アに対応するWSのグラフはAである。
     写真濃度分布イでは、周期が長いので低空間周波数域までしか情報がなく、かつ振幅が最も大きいのでWS値は最も大きくなる。よって、写真濃度分布イに対応するWSのグラフはBである。
     写真濃度分布ウでは、周期が短いので高空間周波数域まで情報があり、かつ振幅が中間の大きさなのでWS値も中間の値になる。よって、写真濃度分布ウに対応するWSのグラフはCである。
     写真濃度分布エでは、周期が長いので低空間周波数域までしか情報がなく、かつ振幅が中間の大きさなのでWS値も中間の値になる。よって、写真濃度分布エに対応するWSのグラフはDである。
     写真濃度分布オでは、周期が短いので高空間周波数域まで情報があり、かつ振幅が最も小さいのでWS値は最も小さくなる。よって、写真濃度分布オに対応するWSのグラフはEである。
       
    [写真濃度分布]    [ウィナースペクトル]


  4. NEQとDQE

     1.NEQについて

     NEQ(noise equivalent quanta:雑音等価量子数)は、周波数毎に画像形成(画質)に役立ったX線量子数を求めた評価で、物理評価に用いられる画質属性(コントラスト、鮮鋭度、粒状度)を総合的に関連させて表示することができる。
    NEQは次式で表される。
    ただし、スクリーン。フィルム系の場合は、G:特性曲線の階調度、WS:ウィナースペクトル、MTF:レスポンス関数とする。
    また、ディジタル画像の場合は、G:ディジタル特性曲線の傾き、WS:ディジタルウィナースペクトル、MTF:プリサンプリングMTFとする。
                 (log10e)・22・MTF2
           NEQ= ────────────
                   WS

     増感紙-フィルム系のMTF曲線とWS曲線を示す。階調度がほぼ一定のとき、高周波領域の雑音等価量子数(NEQ)が最も高いのはDである。

     2.DQEについて

     DQE(detective quantum efficency:検出量子効率)は、検出器がX線光子をどの程度無駄なく捕獲して画像の構成に役立たせているかの尺度である。理想システムを1.0に正規化して表示する。

           DQE=NEQ/q  (q:検出器に入射した単位面積当りのX線光子数)


  5. デジタル画像の評価法

     1.特性曲線

     デジタル特性曲線の縦軸はピクセル値で、横軸は線量(相対X線強度)で表す。
     ディスプレイの特性は輝度で表す。
     オーバーオール特性曲線は写真濃度または輝度で表す。
     デジタル特性曲線の測定法にタイムスケール法を用いる。

     2.MTF

     MTFの最大空間周波数は標本化間隔とアパーチャサイズで決まる。
     CRのMTFには、X線検出器のMTF、アパーチャMTF、デジタルMTF、画像処理フィルタのMTF、ディスプレイのMTFがあり、この内、エリアシングの影響を含むのはデジタルMTFである。
     プリサンプリングMTFとデジタルMTFは異なる結果を示す。
     プリサンプリングMTFの測定にはスリット法、エッジ法、チャート法を用いる。
     散乱X線の影響を出来る限り受けないように、金属スリットや金属エッジをX線撮影する。
     金属スリット像や金属エッジ像からLSFを求め,フーリエ処理でMTFを算出する。
     デジタル値を特性曲線を用いて有効露光量に変換する。
     プリサンプリングMTFを求める際には、エリアシングの影響を考慮する。
     オーバーオールMTFはシステム全体のMTF評価に用いる。
     MTF測定の際には、画像の周波数処理を施さないで測定する。

     3.ウィナースペクトル

     デジタルラジオグラフィのノイズは、X線量子ノイズ、検出器の構造ノイズ、量子化ノイズ、エリアシングノイズ、電気系ノイズがあり、この内、撮影線量に依存するのはX線量子ノイズである。
     ウィナースペクトルの測定ではエリアシングの影響を受けるので、エリアシングエラーを小さくする必要がある。
     スムージング(平滑化)の画像処理を行うとノイズが低減する。
     デジタルウィナースペクトルの測定には、トレンド除去処理,ピクセルサイズの確認,デジタル特性曲線の測定を行う。
  6. 画像の視覚評価

     1.C−Dダイヤグラム

     C−D(contrast-detail)ダイヤグラムはバーガーファントム像を観察して視覚評価する方法である。

     2.ROC解析

     ROC解析は視覚により評価する主観的評価法である。
     ROC解析は検査法の有効性を客観的に評価する方法として利用される。
     ROC解析は雑音で占められているバックグラウンドの中から、かすかな信号を検出する能力を確率的に解析・評価する方法である。よって、試料枚数が多いほど統計的変動は小さくなる。
     臨床画像試料では病変が信号に対応している。
     ROC曲線(receiver operating characteristic curve)は信号検出理論を背景にした受信者動作特性曲線である。
     ROC曲線を求める方法はyes-no実験、評定実験、連続確信度法などがある。
     t検定は観察者間の変動を考慮した検定法である。
     評定確信度法は主に5段階のカテゴリーを用いている。
     プール法は試料ごとに観察者の評定値を平均化して求める方法で、アベレージ法は観察者ごとのROC曲線を平均化する方法である。


     ROC曲線は刺激・反応のマトリックスを用い、感度(有病正診率、Sensitivity)や特異度(Specificity)により評価する。
     特異度は異常がない画像に対して異常ありと判断した確率である。
     感度は異常がある画像に対して異常ありと判断した確率である。
     真陰性は異常がない画像に対して異常なしと判断した場合である。
     偽陰性は異常がある画像に対して異常なしと判断した場合である。
     偽陽性は異常がない画像に対して異常ありと判断した場合である。

     ROC曲線は、一般に横軸には、偽陽性率〔P(S/n)雑音のみの画像を観察して信号ありと答える確率〕、縦軸には真陽性率〔P(S/s):信号を含む画像を観察して信号ありと答える確率〕としてプロットすることにより得られる。そのため、左上方に位置するほど優れた検査法である。
     偽陽性率が1.0のとき真陽性率も1.0になる。
     ROC曲線下の面積(Az)を用いて評価し、Azの最大値は1.0である。
     ROC曲線間の統計的有意差検定にJackknife法が用いられる。
     対象データ数の割合の大小により施設ごとの評価に差を生じるが、読影者間の診断能力の差を評価することが可能である。
     試料の難易度に応じてROC曲線は変動する。
     低コントラストの顆粒状陰影の描出能は、小さなビーズ玉を用いたROC曲線により評価される。
     ディジタル画像の画質の臨床的評価やMR画像とCT画像との特定の病変に対する検出能の違いなどをROCで評価できる。また、画像処理が診断能に与える効果も評価できる。
     ROC解析結果は物理的評価と一致しない場合が多い。


  7. エントロピー
     エントロピーは統計力学に用いられる確率論(情報理論)における情報伝達量である。
     エントロピーは出力のバラツキから入力を識別する情報伝達能の評価である。


  8. 画質と視覚

     1.視覚

     錯視(illusion)は知覚される物の形が背景や配置の状況によって実際と違って見えることである。
    錯視の例1    錯視の例2

     明順応の視感度の時定数は暗順応より短い。
     暗順応は色光により変化する。
     テストパターンの一つとしてランドルト環が用いられる。
     ランドルト環は視力測定用の太さと切れ目の異なる環状指標である。
     散瞳とは瞳孔が大きく開くことである。

     2.シャウカステンによる視覚の変化

     シャウカステンはX線写真の粒状度に影響を及ぼさない。
     X線写真の識別能はシャウカステンの輝度も関連する。

     3.エッジ効果

     エッジ効果(edge effect)は静止現象に多く現れ、X線吸収差の大きい吸収体の辺縁に起こる、濃度のオーバーシュートとアンダーシュートの現象である。
     ゼロラジオグラフィはこの効果が大きい。
     エッジ効果は視覚にもあり、マッハ(Mach)効果と呼ばれ、明暗の境界部分で明暗が強調されて感じられることである。
     エッジ効果により空間周波数特性の改善が期待できる。


  9. その他
     MTF、ウィナースペクトル、フィルム特性曲線、ROC、RMS粒状度、LSF(Line Spread Function)などの画像評価法において、空間周波数表示をするのはMTF、ウィナースペクトル、NEQ(u)である。
     画像評価法のうちフーリエ変換を必要とするのはMTFのフーリエ変換法とウィナースペクトルである。
     画像評価法では物理的評価と視覚的評価が一致する場合もあるが多くは一致しない。

目次   第2章   第4章


2011年04月作成