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  小春日和の暖かな透明感のある陽射しが舞い込むリビングで。それは唐突な一言から始まった。


 「耕介、知佳と別れる気ない?」


 「は」


 「ふ、ふえ?」


  惜しみない光りの中突如掛けられたその言葉に、くつろいでいた耕介たちが驚いて振り向くと、
 そこにはやや沈んだ目をした棒立ちのリスティの姿があった。


 「ちょ、ちょっとちょっとリス――」


 「どうなの、耕介」


 「いやどうなの、って言われても……なぁ?」


  酷く頭を混乱させながらも、知佳はなんとか親友を咎めようとする。が、そのリスティの普段の
 ふざけた様子とは違う真剣な口調につい閉口してしまい。


 「ん〜悪いが今の所そんな予定はまったくないよ」


 「お兄ちゃん……」


 「……そっか」


  口にチョコチップクッキーを咥えたまま暫し固まっていた耕介だったが、やがてゆっくりと口を
 開くと、何気に頭に手をやりながらそう言って返す。


 「そう、だよね」


 「リスティ?」


  その答えを聞いて知佳はぱあっと表情を輝かせ、一方リスティはそれを予想していたかのような、
 ため息にも似たそんな呟きを漏らすとフッと一段と視線を下げて。


 「ちょ、ねえ、突然どうしたっていうの?」


 「…………」


 「リスティーっ?」


  そうしてそのままリスティはリビングを去って行ってしまい。残された二人はお互いに見合って、
 ただただ首を傾げる他無かったのだった。








  〜イケナイコトカイ〜
  (Main:リスティ Genre:ほのぼの Written by:竹枕)








 「愛する友の眼差しが 傷つくたび倒れるたび 俺を強くする〜♪」


  ある日の午後。その日も耕介はいつものように軽く鼻歌を口ずさみながら、台所に立っていた。


 「……こーすけ」


 「ルール破りの〜♪ ……ん? なんだ、リスティか」


  調子よく歌声が大きくなっていく中、ふとクイクイと裾引く手に気付き振り返って見る。とそこ
 には先日と同じように沈んだ色の目をして、リスティが一人ポツンと立ち尽していた。


 「耕介、今一人?」


 「え、そうだけど」


  そう言って辺りを見まわすリスティを訝しく思いながらも、耕介は再び鍋に視線を戻し、菜箸を
 指揮棒のように二度三度上げ下げする。


 「なにしてるの」


 「これかい? 今はキャベツの下茹でをしてたのさ」


 「ふーん」


 「キャベツってのは意外とゆで時間がかかるからね」


  耕介のシャツの裾を掴んだまま、寄り添うように隣に立つリスティ。自分で質問しておきながら、
 その声は何処か上の空で。


 「さて問題です、このゆでられたキャベツ達、この後どう料理されるんでしょーか」


  そんなリスティの様子を気にしてか、耕介は務めて明るい口調で、持ち上げた菜箸をV字に広げ
 ながら問い返した。


 「とは言っても実はメインじゃないんだけどな」


 「……ロールキャベツ」


 「残念、ハズレだ」


  あいかわらずクールな声。押し黙り、それ以上答えが返ってこない事を察すると、耕介は小さく
 苦笑して。


 「これはね、ちょっと柔らか目までゆでちゃって、しぼっておいてね。豚カツの下にひいて上から
 お出汁をかけるのさ」


 「トンカツ?」


 「お茶カツっていって、名古屋の方の食べ方だったかな?」


  まるでリスティの分まで沈黙を埋めるように、やや早口に目の前を回る緑色の夕飯の素について
 説明していく。


 「さっぱりと食べられるから、きっとリスティも気に入ると思うよ」


 「そう」


  そんな耕介の語りかけにも残念ながら反応は薄いまま、リスティの視線は鍋の中身と言うよりは
 もっと下、ちろちろと揺らめくガスの炎を見詰めていた。


 「そのお出汁を吸ったキャベツが、また美味いんだよなぁ」


 「……ねえ耕介」


 「なんだい」


  前髪に熱く湿った空気を浴びながらリスティはやがて意を決したように、構わず話し続けている
 耕介に向って口を開いた。


 「ボクと、SEXしない?」


 「ぶっ!?」


  先日知佳と別れないかと聞いてきた、それ以上の爆弾発言に盛大に吹き出した耕介。


 「な、ななななんだ突然に」


 「……ダメ?」


 「駄目って、そりゃあ、なあ」


  困って頭を掻きつつ、なんとか笑って返そうとするが、リスティの潤んだ何処か寂しげな瞳に、
 その真意を量りかね曖昧に返すことしか出来ない。


 「ボクは耕介だったらいいんだけど」


 「ありがたい申し出だが、遠慮させてもらうよ」


  リスティの事は好きだけど、知佳を裏切る訳にはいかないしね。そう言って耕介はゆっくりと、
 銀色の髪に手を伸ばしていく。


 「……ボク、欲求不満なのかもしれない」


 「へ?」


  しかしその手が触れる直前、俯きポツリとリスティの口から漏れたその言葉に、ピタリと耕介の
 手が止まった。


 「夢を、見るんだ」


 「ユメ? どんな夢を」


 「……耕介と、SEXしてる夢」


  手を宙にかざしたまま、予想外の答えに驚き目を見開く。


 「耕介の事は好きだけど、だけど今はそこまで考えた事は無かった」


  耕介には知佳がいるし、とか細く、親友の前ではけして見せない素直な心情が、リスティの口の
 端から零れ落ちる。


 「それが最近、そんな夢を何度も見るんだ」


 「う〜ん」


 「だからボクは、欲求不満なのかも。 ……おかしいよねこんなの」


  自嘲するリスティは小さく、普段の大人びた姿とは違い歳相応、いやそれ以上に果敢無げに見え。


 「昔は、夢自体見る事もなかったのに」


 「リスティ……」


  くらくらくらと小さく鍋が煮立つ音が絶え間無く続く中、またその言葉は彼女の暗い過去をも呼
 び戻し、耕介の胸を切なくキリキリと締め付ける。


 「こーすけ、ボク、どうしたらいいんだろう」


  そう小さく吐露し、何時の間にか両手でぎゅっと裾を掴んでいたリスティは、すがるように泣き
 そうな瞳で耕介の顔を見上げていたのだった。






                     〜◆〜






 「……なあリスティ、何度もって言ったけど具体的にはどれぐらいなんだ?」


 「え?」


 「どれぐらいの頻度で、何度ぐらい見たのかって」


  暫しの沈黙の後、耕介はカチンとガスを止め改めてリスティを真ん前に向き返ると、その両肩に
 手を置き、視線を合わすよう腰を屈めて静かにそう問い掛けた。


 「……多分、ここ1ヶ月で2、3回。一昨日も見た」


 「そっか。それなら大丈夫だ」


  リスティの話に思い当たる節のあった耕介は、ためらいがちに返ってきた返事により大きな声で、
 娘を安心させる為ことさら笑顔で返す。


 「どうして? どうして大丈夫なの?」


 「んーなんちゅうか、子供っていうのは、そういった夢を見る事があるんだよ」


  ぽりぽりと後頭部を掻いて軽く宙を見上げて、ズイと迫ってきた視線をかわすと。


 「でも……」


 「何を隠そう俺も昔に、そんなHな夢を見たもんさ」


 「耕介も? ほ、ホントに?」


 「俺がリスティに嘘つけるかよ」


  更に食いついてきたリスティの頭を手で抑え、親指でその額を撫でつけながら耕介はにぱっと、
 口の端を吊り上げて見せる。


 「誰とSEXしてる夢見たの? 知佳?」


 「違うよ。えーと……その、ほらなんだ、お袋と」


 「おふ……母親と?!」


  驚きの余り目を白黒させるリスティに、あーと少し気まずそうにやや低い声で答える耕介。


 「俺は多分その一回だけなんだが、小学校の4年だか5年生だかのちょうど思春期に入る頃にな。
 内容はあやふやだけど、でも母親とそういう事をしているんだって分かる夢を見た」


 「あ、え、へえそう」


  逆に慌てた様子のリスティに少しだけ苦笑すると、耕介の方から横に抱えるよう肩に置いた手で
 椅子へと誘った。


 「もちろん俺もお袋に対してそんな気持ちは持ってなかったし、だからなんでそんな夢を見たのか、
 悩んだ事もあったよ」


  ちょうど今のリスティの様にね、と自らも腰掛けた耕介を前に、リスティはどんな顔をしていい
 のか分からず目を合わせる事が出来ない。


 「保健体育の本とか読むとね、思春期の頃にはそういった夢を見るものなんだって書いてあるんだ。
 でもさ、だからって中々納得は出来ないもんだよなぁ」


 「う、ん」


 「恥ずかしいやら照れ臭いやらなんやらで、他人にも相談できなかったしね」


  未だ驚きの表情を残してテーブルを見詰めるリスティに、とりあえず全て話し説明してしまった
 方が早いと判断した耕介は、そう言って一息つくとまたやや乾いた口を開く。


 「それから暫く経って久々にその事を耳にしたのは、当時はまってたある深夜ラジオでだったんだ」


 「ラジオ?」


 「うん。二人組のお笑いコンビだったんだけど、深夜だし下ネタも多かった……と言うかほとんど
 それ中心だったなー」


  記憶を手繰り寄せるように遠い目で語り続ける耕介に対し、リスティはと言えば内容を理解する
 のに必死で、オウム返しに返事するのがやっとだった。


 「その中でひょんな話の流れから、母親とHする夢を見た事があるって話になったのさ。二人とも
 お笑いだからか、気楽に俺も見た見たって言い合っていて」


 「そう、なんだ」


 「それを聞いてね。実際に他人から自分と同じだって話を聞くと、俺の気持ちもすーっと楽になっ
 ていった気がするよ」


  胸に手をやり、その時の自分の心が娘に移っていくよう耕介は静かに、優しく語り掛ける。


 「……どうして、そんな夢見るんだろう」


 「ん〜きっと母親っていうのは、男の子にとって一番最初の身近な女性だからさ。だから性に目覚
 める頃に、夢の中でそういった対象になるんじゃないかなぁ」


  耕介がグッと背を反ると、ギイと背もたれが抗議の声を上げる。母親は息子にとって最初の恋人、
 といった誰かの言葉を思い起こしながら。


 「でもその内に好きな女の子ができたり、実際に彼女ができたりすると何時の間にか自然と、そう
 いった夢は綺麗さっぱり見なくなってるもんで」


  一緒に持ち合わせていた罪悪感と共にね、とそう言って振り向くと、もう二人の目はしっかりと
 合わさっていた。


 「他に性の対象が明確に出来て、移り変わっていくんだろうなぁ」


 「じゃあやっぱり知佳と母親以外の夢も、耕介は見た事があるんだ」


 「うはは、スマンある」


  自分のすみれ色した瞳に見詰められると、そうついつい声が大きくなる耕介にリスティも僅かに
 笑みを取り戻し。


 「男と女の違いは分からないけど、でもきっとリスティにとって俺は一番身近で、男親のような存
 在だから。だから夢に見たんじゃないのかな」


 「…………」


  想い人のような、また親のような、耕介に対し様々な感情を併せ持ったリスティは、その場では
 答える事が出来ずにただ沈黙するだけだった。


 「だから気にしなくて良い。夢を見るのはいけない事なんかじゃないさ」


 「……でもボクは小学生なんかじゃないよ」


 「ああ、そりゃまそうだけども」


  話し合う内調子が戻ってきたのか、少しむっとした口調のリスティに耕介は笑いかけながら。


 「リスティはずっと大人で、色んな経験をしてきているけど。でもその分、今までに取りこぼして
 きた事もあるんじゃないのかな」


 「ん……」


  ちょっと困った様子で言葉を選び、それでも語り掛け続けてくれる耕介に、リスティもそれ以上
 本気で反対する事無く。


 「夢自体最近見るようになったんだろう? だったらそんな経験も、遅れてやって来るものさ」


 「うん」


  そうしてリスティは最後にコックリと一つ、大きく頷いた。


 「どうだ? 少しは参考になったか」


 「ウン。自分でももう少し、調べてみる」


 「そうしろそうしろ、納得がいくまでな」


  まだまだ完全に納得した訳ではなさそうだったが、それでも見違えるほど明るくなったように見
 えるその表情に、耕介は小さく安堵のため息を漏らしポンと一つ膝を叩いて。


 「さあてっと、なんだか喉がかわいちゃったな。実はカステーラがあるんですが〜?」


 「ボクもノドからから♪」


  話し合う前に用意しとくんだったな、と苦笑して席を立つ耕介にリスティも喉を手でおさえ声を
 弾ませる。


 「紅茶か日本茶かどっちが良い?」


 「じゃ紅茶」


 「OK。えーフォション缶がまだあったよなー」


  紅茶の缶のある棚に手を伸ばし、軽く背伸びする耕介の大きな背中を頬杖で見詰めながら。リス
 ティはにっこりと、ようやく心からの笑みを浮べていたのだった。






                     〜◆〜






  それから数日後のある日の午後。


 「やっぱり1つじゃ無理か、もう1個無いと……」


 「耕介」


  腕に大きな土鍋を抱え、目の前のアルミ両手鍋の中身と見比べながら、何やら首をひねっていた
 耕介の背中に、蒼く透明な呼び声が投げ掛けられた。


 「リスティかい、どした?」


 「ちょっと、いい?」


 「ああもちろん」


  せんだっての事もあり、その声を聞くなり今度はすぐに作業の手を休めると、リスティには座る
 よう促し。


 「あれからボクも色々と本を読んだり、自分なりに調べたんだ」


 「お茶出すから、そこに座ってな」


 「エディプスとか、エレクトラコンプレックスとか、確かに子供はそういった夢を見るものだって
 書いてあった」


 「そうかそうか」


  耕介はお茶の用意をしつつ背を向けたまま、リスティの言葉に一つ一つ頷いて返していく。


 「耕介の言っていた事は間違ってなかったと思う」


 「うんうん」


 「でも……」


 「でも?」


  眼前にコトンと湯のみを差し出し、以前と同じように耕介が側に座って横から覗き込んだ途端、
 パッとリスティの顔が上がったかと思うと。






 「でもボクはやっぱり、耕介の事が好きだ♪」






 「……そっ、か」


  そういっそ清々しく、可愛らしい笑顔で告白された耕介は、一瞬目を丸くしてそれ以上何も言い
 返す事は出来なかった。


 「きっと一人で、本で知識を得ただけじゃ今みたいな安心感は無かった」


  ややはにかんで再び視線を落とし、茶色い湯のみに両手でそっと包み込むように触れるリスティ。


 「耕介が、話をしてくれたから」


  その水面を無意識に小さく回すと、揺れるたび触れた部分の温度が上がってくる。止める、また
 落ちつく。それがなんだか楽しくなり何度か繰り返しながら。


 「ボクは、そんな耕介の事が好き」


 「……ん。あんがとなリスティ」


  もう一度、ピンクに染めた顔を見上げてそう言い放ったリスティの銀髪を、耕介はくしゃくしゃ
 優しく掻き回した。


 「ねえ耕介、だからやっぱり知佳と別れる気ない?」


 「お前なー」


  そうして言いたい事はもう全部言ってしまったとばかりに、リスティは急にテーブルに寝そべる
 ように身を乗り出すと、猫なで声で下から耕介の顔を覗き込む。


 「別れないよ。絶対」


 「そう。残念」


  きっぱりと断わられ、しかしなぜか笑顔のままリスティはすぐに身を起こして。


 「でも、もうそれでもいいよ」


 「ん?」


 「結婚しても、どうせ耕介はここに居るわけだし」


 「ん〜それは多分、そうだろうけど」


 「もし何処かへ行っても、何処へでもついて行く」


  先日とは打って変わって吹っ切れた様子のリスティに、耕介は僅かばかりに目を見開き。


 「それでいずれ耕介は、知佳と子供を作るんでしょ?」


 「ま、まぁ、そりゃあいずれは……な」


  そういう事も無きにしもあらずだが、と今更ながら照れて言いよどむ耕介が、リスティには酷く
 可愛く見えてまたクスクスと小さく声を漏らす。


 「だったらボクも一緒に、その子を育てるから」


 「え?」


 「一緒にお風呂に入ったり、ピアノを教えたり、お菓子の好みを決めたり……」


 「食の好みってのは、他人が決めるもんじゃないんじゃないか?」


 「同じ物を食べてれば自然とそうなるよ。きっと」


  突っ込まれてちょっと意固地になるリスティに、今度は耕介の頬がゆるむ。


 「そうしてボクも、耕介達とずうっと一緒に居るんだ」


 「リスティ……」


  遠い天井に向って夢を語るリスティ。彼女がそう言って湯のみに口付けるのを見て、耕介も思い
 出したようにズズズッとぬるくなってきたお茶の残りをすすったのだった。


 「はじめてのお酒の味も、ボクが教えてあげるよ」


 「あ、オイそれは俺の役目だろ」


 「どうして?」


 「どうしてって、息子と酒を酌み交わすってのは父親の夢だぞ」


  コン、と空になった湯のみをテーブルに軽く叩きつけながら、それだけは譲れんと耕介はなぜか
 胸を張ってそう主張して。


 「生まれるのは男の子とは限らないじゃないか」


 「娘だったらなおさら譲れんわい」


 「む」


  自分の反論にも揺るがない耕介の態度に、リスティもむーと眉をひそめ二人は暫しにらみ合い。


 「む〜……プッ。あっはは、なんか、変なの」


 「ぶははっ、まだ生まれるどころか、作ってもいないのにな」


 「あは、あははははは……」


  そしてどちらとも無く吹き出し、お互いに見合うと本当に楽しそうに、笑った。






                     〜◆〜






  やがて何気に二人ともが口を閉ざし、空になった湯のみ冷たくなってきた頃。不意にリスティが
 小さく、なぜか少し恥ずかしそうに頬を染めながらその沈黙を破る。


 「ねえ耕介、それともう1つ方法があるんだけど――」


 「やほーおにーちゃ……あ、リスティも、一緒だったんだ」


 「お、知佳」


  とその時、学校から戻るなりまず恋人である兄の元へと、制服のまま直行してきた知佳が笑顔で
 ダイニングに姿を現わす。がすぐに隣に恋敵の姿を認めると、控え目に眉をひそめた。


 「知佳か……ちっ、邪魔が入ったか」


  一方リスティはと言えば、わざと知佳に聞こえるよう大きな声で舌打ちしてみせる。


 「うー邪魔とはなにようリスティ」


 「……耕介、こーすけ」


 「うん?」


  その態度に低く不満の声を上げる知佳だったが、リスティはお構い無しに耕介の袖を引いて。


 「今の話、一応知佳には内緒にしておいて欲しい」


 「ああ、分かった」


  小さく桜色した口を耳元に寄せて、耳打ちする。


 「まだ完全に敗北宣言、した訳じゃないし」


 「……なに、話してるの?」


  自分の目の前で内緒話を続ける二人に、ちょっと疎外感を感じてしまって。知佳は少し寂しげに、
 首を傾げて見せた。


 「それに……こーすけ。LOーVE」


  SMACK♪


 「なっ、お、おい」


 「?! な、何してるのリスティっ!」


  不意に頬を襲ったやわらかな感触に、耕介は思わず身を退こうとするが、襟を掴んだリスティが
 それを許さず、またその光景を見た知佳も途端に気色ばんだ。


 「ボクと、子供だけ作るっていうのもアリなんだけどな」


 「……遠慮しておこう」


  離れ際そう耳元で囁いた小悪魔に、耕介が軽く批難の視線を送ると、ダメか、と心底楽しそうな
 笑顔を浮かべたまま。


 「じゃね、うるさい2号さんが来たから、ボクは行くよ」


 「こーらーっ! 誰が2号さんよー!」


 「bye♪」


  軽やかなスペードのウィンクをその場に残して、リスティは知佳の怒号飛び交うダイニングから
 まるで飛ぶように逃げ出していった。






 「これぐらいは、いけなかないよね」






                                       了









  後書き:知佳シナリオのリスティって結構子供らしいと言うか、幼い感じなんですよね。
      そこがまた可愛いんですが♪
      お茶漬けカツって名古屋の料理、ですよね?
      ウスターソースがきつい時もあるんで、わたしは結構好きな料理なんですが。

      あんまり内容に関係はありませんが、一応知佳SS『せいぎのみかた』と、
      セットで書いたSSですね。よろしかったらそちらも読んでもらえると嬉しいです〜。





  04/02/18――初投稿。
  04/12/20――加筆修正。

Mail :よければ感想などお送り下さい。
takemakuran@hotmail.com
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