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  〜唇にメロディ〜
  (Main:知佳 Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






 「サンダー・ブレイク!」


 「シャイニング・アローッ!」


  その日さざなみ寮の上空では、二人の天使による超能力どつき漫才がおこなわれていた。


 「遅い」


 「キャッ?!」


 「ニー・インパルスキーック!」


 「っく、サイコ・バリアーッ!」


  遠距離での飛び道具の打ち合いから間髪入れず間合いを詰め、放たれた電撃を帯びたリスティの
 膝蹴りを知佳がバリアーで防ぐ。


 「やるじゃないか知佳。防御力が上がってきてる」


 「あ、あたしだって!」


  なんとか全ての攻撃をしのいだ知佳は、キッとリスティを睨みつけ構えをとり直す。だがそれを
 見たリスティはニヤリと口元をゆがめ笑みを浮べた。


 「……でも、こっちもなんにも用意してないと思うかい?」


 「えっ?」


  フッとリスティが地上、寮の庭に視線を落とす。つられて知佳も目を向けると、そこには見物人
 の美緒、そしてみなみちゃんが空の上の二人を見上げていた。


 「こちらリスティ・槙原だ。グレートブースターを射出してくれ」


 「らじゃったのだ」


 「ほえ?」


 「えっ? えっ?」


  合図を受けた美緒はみなみちゃんの背後に回りこみガシッとその体を捕まえると、ブンブンと振
 り回し、空高くリスティに向かって力任せに投げつけた。


 「……っせーのっ!」


 「ほ、ほえええええええええっ?!」


 「え、ええええええええええっ?!」


  そうしてリスティと共に加速したのち、切り離されたグレートブースター、もといみなみの体が
 知佳に向かって突進する!


 「……シュート」


 「ち、知佳ちゃんとめてぇぇぇぇぇぇ!」


 「ひゃっ?! み、みみみなみちゃん、来ないでぇーッ!!」




  ごいん。




 「きゃあ?!」


 「はぶっ?!」


  知佳が反射的に張ったバリアに直撃、潰れたカエルのように張りついたみなみちゃんは……


 「きゃあああああ! み、みなみちゃぁああーーーーん?!」


 「あ」


 「……ふげっ」


  ずるりとバリアの壁を伝うと、そのまま顔面から地上へと落下した。


 「み、みなみちゃーーーーん?!」


 「ちっ。防がれたか」


 「り、リスティ! いくらみなみちゃんが弾丸並に頑丈だからって、なんて事するのよっ?!」


 「バリアーで潰したのは知佳じゃないか」


 「そ、それはそうだけど……」


 「おーい。生きてる?」


  上空で知佳たちが言い荒らそう中、美緒がつんつんと棒でみなみの体を突ついていた。


 「あれほどの質量と硬度を持った物を、使わない手はないよ」


 「でもいくらみなみちゃんが硬くて人間削岩機だって、そのまま弾として使うなんて……」


 「おーい。生きてるー?」


  そうして二人の侃々諤々の口ゲンカが再びどつき合いに変わる頃、みなみちゃんはうつ伏せで体
 半分を地面にめり込ませながら、滂沱の涙を流していた。


 「トリニティ・レーイッ!」


 「ドリルプレッシャー・パンチ!」


 「つぶれた? なんか汁が出てきた」


 「うう、みんな私を人扱いしてよ……」






                     〜◆〜






 「はぁ」


 「災難だったなぁ。いや、災難なのはみなみちゃんの方か……」


  隣で深いため息をつく知佳を見て、耕介は苦笑する。


 「うう、親友をバリアで潰した誕生日……」


  今日は知佳の誕生日10月の4日。その為のささやかなパーティも終わり、今は夜、部屋に二人
 きりでいた。


 「まぁリスティと美緒には厳重注意しておいたし。みなみちゃんも怒ってないんだろう?」


 「ウン。でも……」


  皆の前では明るく努めていた知佳だったのだが、耕介と二人の時は気持ちがゆるむのか。ベッド
 に座るとショボーンとうなだれている。


 「二人ともおやつ抜きにしておいたからね。その分をみなみちゃんに回す事にしたし、本人はかな
 り上機嫌だったようだけど?」


  リスティからおやつを分けてもらう契約だった美緒は、丸損なのだー! とぶーたれていたが。


 「とっさの事だったから、仕方ないよ」


 「…………」


 「ほら、もう笑って。俺の為に、それにみなみちゃんの為に。な?」


 「ウン……ありがと。おにーちゃん」


  耕介が手の甲で頬を撫でてやると、知佳はその手に嬉しそうにゴロゴロと頭をすり寄せた。






                     〜◆〜






 「そうだ。コレ、俺からな」


  耕介は後ろ手にベッド脇に手を伸ばすと、知佳に綺麗にラッピングされた小さな箱を手渡した。


 「ありがと、なんだろな〜♪」


  それを嬉しそうに両手で受け取ると、破らないよう包装紙やシールなどを丁寧に剥がしていく。


 「ちっちゃいしぃ、ひょっとして指輪とか?」


  ゆっくりと手を動かしながら知佳はそんな事を冗談めかして言う。


 「ざんねんでした。もし指輪なら、俺が自分で知佳にはめてるよ」


 「そっか。ちょっと残念、かな」


 「うん……それはまた今度ちゃんと、な」


 「う、ウン……あは」


  耕介がそう声をひそめ耳元で囁くと、やや知佳の包装を剥がす手が乱暴になる。


 「あ」


  そうしてちょっぴり包装紙を破っちゃいながら包みを開くと、中から出てきたのは、金色の長方
 形の箱に入った一本の口紅だった。


 「この口紅を……わたしに?」


  パッと振りかえった知佳に、ああ、とただ頷く。


 「……ちょっと、意外」


 「もう知佳は単なる妹じゃなく、俺の恋人。だから一人のレディーとして、ね」


 「おにーちゃん……」


  なーんてね、と耕介は冗談めかして笑うが、知佳はポーっとして目を潤ませている。


 「そう言うのよくわかんなくって、だいぶんと苦労したんだけどな」


 「ありがとお兄ちゃん。じゃ、さっそく塗ってみるね」


  お兄ちゃんに見てもらいたいし、と淡いピンク色の口紅をひねり出すと、知佳はきゅっ、と意外
 となれた手つきで手鏡を見ながら淡いピンク色を唇に塗っていく。


 「どう、似合うかな?」


  仕上げにはむっと二つ折りのティッシュをくわえると、軽く余分を落として。知佳は小首を傾げ、
 耕介に向って濡れて光るピンクの唇でにっこりと微笑んだ。


 「? お兄ちゃん?」


 「…………」


 「おにーいちゃん?」


 「……あ、ああ知佳」


  知佳が顔の前でヒラヒラと手をふる。と、ようやく耕介はハッと我に帰った。


 「どしたの、ぼーっとしちゃって」


 「……悪い知佳。ちょこっとだけ返してくれ」


 「え?」


  くいっ、と知佳のアゴを掴むと、やや強引に唇を重ねた。


 「んむっ?! ぅんっ、ん〜……」


  深くはあったが、あまり動かさずに静かに続くキッス。初めビクッと縮こまった知佳の体から、
 ゆっくりと力が抜けていく。


 「んん……」


 「ン……っふぅ、はぁ」


 「すまん知佳。我慢できなかった」


 「もう、お兄ちゃんったら……」


  知佳は赤い顔でほぅ、と一息つくとそのままゆっくり耕介の胸に体を倒し。キュッとしがみつく
 と耕介はその背中をポン、ポンっと叩いていた。






                     〜◆〜






 「おにーいちゃん。ん〜……」


  暫くの間二人は抱き合っていたが、今度は知佳の方から、んーと目をつぶってキスをねだりだす。


 「……ちーか」


 「ん〜んん……♪」


  それに軽く唇を合わせてやると、なおも上を向いて口を尖らす知佳を見て、耕介に思わずプッと
 笑みがこぼれる。


 「知佳は、キス好き?」


 「……キツツキ?」


 「ベタ過ぎるわい」


 「あうっ」


  間髪入れずビシッと脳天にチョップが炸裂する見事なツッコミ。


 「えへへへヘ……好き、かな」


  知佳は頭の叩かれた辺りをさすりながら、でもなんで? と首を傾げた。


 「そうやってると、なんだかエサをねだる小鳥のひなみたいだなって」


 「え? そ、そっかな」


  指摘され、知佳はカーッと両手で挟んだ頬が熱くなる。


 「でもかわいいよ、知佳」


 「やんっ、もう……んんっ、あっ、 ……ふぁ」


  再び顔を寄せると、耕介は額、頬に口を寄せ、すり寄せ、そうしてまた唇をあわせる。


 「あん……ンッ!」


  知佳の唇の間にちょっとだけ出された舌先を、ちろちろと舌で撫でまわす。


 「ふぁ、んんっ、うん……」


  口ごと左右に擦り合せると、つるりとした唇の感触とざらついた舌の感触が交互に伝わって。知
 佳も耕介も、ふれるたび背中にゾクリとした感覚に襲われた。


 「ハァ……いい? 知佳」


 「ん……」


  暫く浅く、深く唇を重ねていると、二人とも次第に気分が高まってきてしまって。耕介の問いに
 恥ずかしそうに頬を真っ赤に染め、うつむいたままコクコクと首を縦に振る知佳。


 「好きだよ、知佳」


 「うん、わたし、もー」


  耕介はそんな知佳をもう一度ギュッと丸ごと抱きしめると、そのまま体ごと横に倒れ、ゆっくり
 とベッドに沈み込んでいった。






                     〜◆〜






 「……ごめん、知佳」


 「っはぁ、はぁ、え? な、なに?」


 「ほとんど、返してもらっちゃったな」


 「え? あ……そだね」


  まだ荒い息をつきながら、知佳が自分の唇を指でなぞる。


 「だいぶ、取れちゃった。うう、シーツとか汚してないかなぁ……汚してるよねぇやっぱり」


  あう〜と唸りながら口紅その他がついたであろうシーツをまさぐっている。


 「汚れ落とす為に、お風呂入ろっか」


 「え?」


 「もちろん、一緒に」


 「あ……うん♪」


  新たな提案にまた顔を熱くしながらも、嬉しそうに承諾する知佳。






  日付はもう翌日。誕生日は終わっていたが、二人の時間はまだ終わらない。






  Happy Birthday. 知佳。






                                       了









  後書き:仁村姉妹誕生日記念SSでした。
      ……二年ぐらい前の。
      実は私自身はスパロボやってません。
      人がやってるのを隣で見せてもらうのが好き。





  02/10/04――初投稿。
  04/10/30――加筆修正。

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takemakuran@hotmail.com
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