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  〜しばられたいの〜
  (Main:忍 Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






  自分は試されているのではないか。時々そんな思いにすら捕われる事があった。


 「かーね持ちかーめ持ちいたらき持ち〜しのぶちゃんは歩く身代金〜♪」


  もちろん恭也を悩ませていたのは、隣で長い髪をゆらして楽しげに歌う恋人、忍である。


 「リッチなあいさつそう〜ともだち○こ〜♪」


 「天下の往来でそんな唄を歌うなっ!」


  デート中にもかかわらず、下品な歌詞に思わず恭也が突っ込むが、忍はしれっと平気の平左で。


 「今日は待望の『母1+2』の発売日なんだも〜ん」


 「そんなにはしゃぐほどの物なのか」


 「うん。でもリメイクだから、元も持ってるんだけどねー」


 「……ますます分からん」


  その反応を見てまたケタケタと楽しげに笑い続ける忍に、恭也は苦笑する他なかった。


 「あ、ねえねえ恭也」


 「うん?」


 「あそこに居るさ、阪巨さん並のでこぼこコンビ」


  突然忍が指差した先、道路を挟んだ道の向こう側に目をやると、そこには大分と身長差のある女
 の子二人組みが歩いており。


 「あの二人の内、どっちの娘が好み?」


 「……隣にお前が居るのにか?」


 「いいから。答えて」


  そう言って恭也は渋るが、忍はわざわざ立ち止まってキュッと腕を掴むと、答えるまで離さない
 ぞといった目でジッと恋人の顔を見詰める。


 「そうだな……どちらかと言えば、小さい娘の方が」


 「む〜」


 「いででっ! 何するんだ忍」


  何気に二人組みを見返し、恭也がそう答えた途端急に左脇腹に痛みが走り。驚いて振り返ると、
 指で脇をつねりながら、忍の目が眉をしかめた不満げな物に変わって睨みつけていた。


 「私が居るのにそういう事言う〜?」


 「はぁ?」


  特に背の高い方が忍に似ているという事もなく、訳が分からない恭也は頭に疑問符を浮べて問い
 返す。


 「そういう時はぁ、忍が一番、って言うんだよ」


 「だから最初にそう言っただろう!」


  返ってきた理不尽な言葉に、さしもの恭也も思わず声を荒げる。


 「あ、もーこんな時間。さ早く行こ恭也」


 「お、オイ忍」


  制止も聞かずスタスタと先を急ぐ忍の後ろ姿に、伸ばした手が空しく取り残される。こんな最近
 頓に見られるようになった恋人の自由な、理不尽な行動に、恭也は多少頭を痛めていた。


 「やれやれ……あの自由人め」


  しかし何となくその理由を察していた恭也は、ただため息混じりにそう呟くと、ポリポリと頭を
 掻き駆け足で忍の後を追いかけるのだった。






                     〜◆〜






  もちろん恭也は恋人のそんな身勝手な行動に時には腹を立てこそすれ、忍本人を嫌いになるなど
 という事はなく。


 「きょ・お・や〜」


 「ハイハイ。よしよし、いいコいいコ」


 「えへへ♪」


  頭を撫でられ、ご満悦の忍。その夜も二人はベッドに座り、早々に裸になって抱き合っていた。


 「んーふっ、ぁ、恭也ぁ」


 「ぅ、ん」


  顔が近づき、目を閉じて唇が重なる瞬間。互いを迎えるように出た舌がわずかに先に触れ合い。


 「うむ、むむ……ぷぁ、ん……」


  舌が滑り、ざらざらとした表とつるりとした裏側が交互に絡み合いながら、やがてむにゅっと濡
 れた唇同士も密着する。


 「ふぁ、あむ、うぅん、んぅ〜……はぅ」


  舌を絡めながら唾にまみれた唇が、開け閉めしながらぬりゅぬりゅと擦れあい、次第にその粘度
 が増してくる。


 「あ……んっく。ふぅ」


  そうして最後にもう一度、忍はぬるーっと舌先で恭也の口の周りの、細かく泡立った唾液を舐め
 取ると、ゆっくりと唇を離した。


 「にへへ、よっ、と」


 「っと」


  グッと恭也の肩を押して、二人はベッドに沈みこみ。その夜は先に戦慄のエロ核弾頭、忍の方が
 マウントをとる。


 「んっ、んっ、っは、んー……」


  上になった忍は体を前後させながら、ツーッと傷痕にそって舌を這わせ始め。その度にまたがら
 れた恭也の左太股が、さりさりと恋人の下萌えにくすぐられた。


 「っ、う」


 「んふふ、んーっ、ちゅっ」


  胸、腹に腕と辺り構わず口付けられ、合わせて恭也の体も小さく逃げる様に身じろぎする。


 「忍……あまり、跡はつけないでくれよ」


 「えーなんでぇ?」


  吐息と共に恭也の口から漏れた呟きに、忍は一旦顔を上げると不思議そうな声で聞き返す。


 「その、家族などに見られると、まずい」


 「だから良いんじゃなーい♪」


 「なぜだ」


  おちおちシャツも脱げん、と恭也は頭だけ持ち上げて抗議の声を上げるが、反対になぜか忍は嬉
 しそうに手を顔の横で組んでにぱっと微笑み。


 「それにこーんなにいっぱいあるんだもん」


  急に体を倒してピトッと抱き付くように耳を張りつけると、するすると円を描く様に恭也の胸を
 撫で回す。


 「その中には私のつけたものが、あってもいいでしょ?」


 「…………」


  そう言うとまた忍は笑顔でチュッチュと傷痕をさすったり、口付けたりし始め。恭也もそれ以上
 何も言えず、ふぅともたげた頭を枕に戻した。


 「でも恭也の胸、固いんだもの」


  手でクッと揉み上げようとしても、持ち上がらない恭也の固い胸板。


 「付けたくっても、キスマークも中々つけらんないしぃ」


 「それは、すまなかったな」


  その胸に不自由そうに軽く噛みつきながら、少し不満そうに唇を尖らせる忍に、思わず恭也は横
 になったまま頭を下げる。


 「あ、うりゃ」


 「いッ?!」


 「……ありゃ?」


  そんな時忍は胸の上に一本の毛を発見し、何気に拾おうと指で摘み上げる。しかし予想に反して
 ちぢれ毛は恭也の小さな悲鳴と共に、プツッと音を立てて乳輪部分から離れた。


 「はぐれ陰毛かと思っちゃった」


 「下の毛はすぐ抜けるからな……だが、一つだけ言っておく」


  Hの最中に乳の毛を引っこ抜かれた恭也は、愛おしげに自分の乳首付近をさすりながら。


 「死ぬほど痛いぞ」


 「あはは、ごめーん♪」


  じろりと犯人を睨みつけるが、忍は頭に手をやり、ぺろりと舌まで出してまったく反省していま
 せんといった顔で謝罪する。


 「もういい、かわれ忍」


 「やーだもーん」


  業を煮やした恭也が立場をかえようとしても、忍は肩を押さえてそれを許さない。


 「かわれったら……っん!」


 「あれ? 恭也」


  忍の指が脇腹から胸に向って滑った時、再び恭也の体がビクッ、と反応して反り上がる。


 「もしかして、ちくび毛抜かれて感じちゃった〜?」


  まだクニクニと大きく乳首を弄びながら、忍がにやーっといやらしく笑った。


 「……んだーっ! もうっ!」


 「きゃっ!」


  その顔を見てついに堪忍袋の尾が切れた恭也は、グイッと反動を付け力で強引に起き上がって、
 反対に忍の体を組み伏せる。


 「もう……ゆるさん」


 「きょ、恭也?」


  ゆらーりと目に鈍い光を宿らせながら、上から忍の白い肌をなめる様に見下ろす恭也。


 「目が据わってるよ〜……ひゃっ!」


  その異様な雰囲気に怯えた忍は今更ながら手で胸を覆うが、恭也は引き剥がすようにその左手を
 取ると。


 「お前のような奴は……こうしてくれる」


 「え? やっ、やっ、あっ?!」


  どこからともなく黒いストッキングを取り出して、忍の左手首に結びつけた。


 「これなら多少無理しても、傷ついたりしないからな」


 「なんでそんな事知ってるの〜!」


 「御神流極意だ」


 「う〜そ〜だ〜」


  いやいやしながら忍はバタバタと暴れるが、恭也は意に介さず黙々と作業をすすめる。


 「ひっ、し、縛り方も、ちょっとマニアック……」


  後ろ手にでも縛られるかと思っていたら、今度は左足をつかまれ、持ち上げられると膝と左手首
 とを結び付けられて。


 「完成だ」


 「えう〜」


  右手も同様に右膝に結び付けられ、両手両足を縛られた忍は足をM字に開かされた状態で寝かさ
 れていた。


 「……ひゃっ!」


  己のあられもない格好に赤面しつつ、観念してぽふっと枕に頭を沈めた瞬間、突然キュッと乳首
 をつままれ忍の体が仰け反った。


 「ぅん……ふ」


 「はぅ、ぁぁ……ッ!」


  改めて恭也が忍に覆い被さると、指で先端をいじりながら、乳房の下のラインにそって舌を唇を
 ツッ、ツと這わせ。


 「ひぁぁん、んぁ、あっ、あーっ」


  くすぐったいような、ゆるいぞわぞわとした舌の感触から、不意に訪れる乳首への強い刺激に、
 か細い悲鳴が忍の口から漏れる。


 「俺が代わりに、跡をつけてやろう」


 「やんんっ、あうっ」


  恭也は胸の上の所に口付けると、薄く開いた歯を押し当ててその間からちうーっと白い肌を吸い
 上げる。


 「はぁ……」


  唇を離すとおっぱいには小さくアーモンド型に、青紫のキスマークが綺麗についていた。


 「アッ!」


  おもむろに今度はぺとっと覆い隠す様に股間に手をあてがうと、すでに湿った秘部の蒸れた体温
 が恭也の手の平に伝わってきて。


 「ひあっ、んぁあっ!」


  そこからクイッと薬指だけ曲げると、上下に揺すりながらゆっくりと入り口に沈めていく。


 「あーっ! はっ、はーっ、んんっ!」


  あまり深く差し入れる事は無く、縦に沿ってなぞる様に、時折くちっと第一関節分だけ埋める。


 「ん〜? 縛られて感じてるのか? 忍」


 「ふみ〜」


  擦る度に益々あふれるぬかるみに、恭也がいやらしく耳元で囁くといやいやと頭を振る忍。


 「……は、ぁ」


 「よ、っと」


 「やっ、ひっ!」


  そうして恭也はようやく指を離すと、体を下げ忍の少し辛そうにしている足の、膝裏を持って支
 えて股間に顔を押し付けた。


 「ひんっ! きょ、やぁんっ」


  すでに愛液に濡れて立ち上がった、入り口周りの陰毛ごと親指で足の付け根を押し広げながら。
 舌で表面を平たくなぞりだすと、恭也のはみ出した足先がベッドの端にコツンと当たり。


 「ぁ……はぁ〜……っ」


  時たま跳ねる忍の腰を抱えて伸ばした舌を半分ほどさし込むと、無味だった表面の粘液と違い、
 中の粘膜は少し酸っぱかった。


 「ぷぁ、ここ、どうだ忍」


 「はぅん……ぅんん……うぅ」


  湿った音を立てながら恭也の口がそう尋ねるが、すでに忍は息も絶え絶えに。互いの声が遠い。


 「しの――」


 「……うっ、うう、ひっ、ひっう、っく……」


  恭也が足の間から顔を上げて仰ぎ見ると、忍はその両目からぽろぽろと涙を流していた。


 「恐いの……」


  小さくそう呟く忍の瞳から、薄く雲母の様に剥がれ落ちた涙が、連なって顔を横へと伝い耳元に
 流れこむ。


 「すまん。すぐに解こう」


 「ちがっ、だ、から」


  その涙にズキッと胸を撃たれ、我に返った恭也はすぐさま緊縛を解こうとする。が忍は擦れる声
 でわずかに体をゆらして。


 「……だから、ギュッて抱きしめて」


  すでにゆるんで解けかかっていた右手を恭也の方に伸ばすと、ギュッと目をつむり再びほろっと
 涙のひと雫がこぼれた。


 「お願い……」


 「……忍っ」


 「うむぅ! むふっ、ふぁぁっ、ふぇ」


  その果敢無げな姿に何かがはじけ飛んだ恭也は、覆い被さり、強引に唇を奪って舌で口内を強く
 かき回す。


 「はぁ、はぁ……くっ!」


  くじゅっ。


 「んぁぁん! はっ、ああ、あんん!」


  忍の足を持ち上げ、その付け根にそそり立った自身を手で持ってあてがうと、一気に突き入れた。


 「し、のぶ、しのぶ……ッ!」


 「きょ、きょう、やっ、はっ、ンぁ、ふぁぁっ!」


  扁平に縛られた忍を抱え上げるようにして、二人は激しく体をぶつけ合っていた。






                     〜◆〜






 「…………」


 「……はぁ」


  あの後何度も何度も上になったり下になったり横にしたり後ろからされたり縛り直したり持ち上
 げたりもう一度上になってシタりした二人は、ベッドの端で並んで呆けた様に座り込んでいた。


 「汚し、ちゃったね」


 「ああ」


  Hの後とはいえ、忍は普段と違いしおらしい様子で、タオルケットに恥ずかしミノムシだんご虫
 で包まっている。


 「発情期でもないのに、私、あんなに……」


  思い出しまた赤面して隠れる様に首をすくめる忍。シーツの真ん中には、行為の激しさを物語る
 ように大きなシミが出来あがっていた。


 「私も恭也の事言えない、変態さんになっちゃったのかなぁ」


 「俺の事とはなんだ俺の事とは」


  だってぇ、と指だけ出してのの字を書く忍に、恭也は軽く肩をすくめると、ふぅと一息ついて。
 ゆっくりと話し始めた。


 「まぁ、それもあるだろうが」


 「む〜」


 「きっと忍は、縛られたいんだろう」


 「? ん……」


  そう言って恭也は熊手にした手を後頭部に突き刺すと、指は忍の豊かな長髪に根元まで埋まって。


 「忍は子供の頃から、放任主義で育てられたんだろ?」


 「うん。まぁ」


  と言うかほっとかれたんだけど、と忍は大人しく髪を梳き流されながら目を細める。


 「それからノエルと二人で。それで、ノエルが居な……眠りについて」


 「……う、ん」


 「そういう縛るものの無い、自由な状態というのは、な」


  手放してしまった風船みたいに、と指でクルリと宙に円を描く恭也。


 「自由と孤独というのは、背中合わせな部分があるから」


  髪から背中、腰へと手でやさしく撫でながら、俺も憶えがあるとちょっと自嘲して。


 「だからきっと忍は、何かに縛られたい、繋がりたかったんだろう」


  そうして恭也はぽんと背中をひと叩きすると、忍の横顔を覗き込んだ。


 「……そっか」


  闇夜に沈黙が流れ、トン、トンッと背中をリズムカルに叩かれる音だけが寝室に響いていたが、
 やがて忍は床を見つめたまま静かに口を開く。


 「私……さみしかったんだ」


  ノエルが居なくなった事が、今もまだ心に影を落としてた。


 「ごめんねぇ恭也」


  その事にどうしようもなく申し訳ない気持ちがあふれてきて。


 「私にはちゃんと、恭也が居てくれてるのに」


  震える声で正面を向いて視線を下げたまま、いま隣に居る愛する人にただ謝り続ける忍。


 「ホント、ごめんなさい……」


 「何を言っている」


  キュッとシーツを掴む手に力が入り、俯いたまま一段と小さくなっていく忍に、恭也はわざと少
 し乱暴にそう言って。


 「それとこれとは別だ」


  これまた少し乱暴に、忍の頭を掴むとぐりぐりとかき回す。


 「俺はノエルの代りでもないし、忍がそう思ってるとも思ってない」


 「…………」


 「ま、基本は忍が縛られて感じる変態だって事は間違いないがな」


 「な、なにを〜」


  恭也の言葉に、忍がようやく赤くした顔を少し持ち上げると。


 「覚悟しろ」


 「あっ」


  その途端恭也の手が動いて肩を掴んで、グイと引き寄せコツンと頭同士をぶつけ合う。


 「これから俺が一生、縛ってやる」


 「……ウン」


  驚いて見開いた瞼を、再びゆっくりと下ろすと、涙が眼のふちに丸くビーズの様に溜まり。


 「私しばられ、たいの」


  タオルケットを掴んでいたこぶしが解け、忍が肌をさらしながらもたれかかると、その虹色の雫
 が恭也の肩に流れ落ちる。


 「ずうっと、あなただけに……」


  もう一度ギウーッと強く強く抱きしめ合い、すりすりと愛おしいげに互いの肌を擦り合せると。
 若い二人はシーツの乾いたシミの上に倒れ込んでいった。






                     〜◆〜






 「わっ?!」


  ある日の午後。恭也と並んでアスファルトを歩く忍の脇を、一筋の黒い曲線がすり抜けて行く。


 「……つばめ?」


 「今の時期は、ツバメが低く飛ぶと雨が降る、という事を体感できる季節だな」


  見ると道先で燕のへの字型の翼が低く、何度か上下しながら飛行しており。現在の梅雨の時期に
 よく見られる光景だった。


 「じゃあ雨が降るのかな?」


 「さあな。わからんが少し蒸すのは確かだしな」


  ふいと仰ぎ見るとその日空は灰色にかき曇り、そのためかやや蒸していた。


 「さて、これからどうする?」


 「ん〜」


 「どこかに入るか。雨もそうだが、忍には外を歩くには少し暑くないか」


  日焼けを避ける為長袖の上着を羽織る忍に、理由は違うが同じく長袖姿の恭也は、汗をかいては
 いなかったがシャツの襟をパタパタとあけて中に風を送りこむ。


 「ありがと♪ じゃあこの蒸し暑さを避ける為に、クーラーの効いたゲーセンで手をつないだまま
 DREカップルモードでするかぁ」


 「バカップル全開だな……」


  満面の笑みと共に出された忍の提案その一に、早くもゲンナリと肩を落とす恭也。


 「それかこのパピコ切り離さず一緒に食べ歩くかどっちがいい?」


 「帰る」


 「あーん恭也ぁ」


  もう一案を聞いた途端クルリと向きを変え、帰路につこうとする恭也を、忍は袖にしがみついて
 必死に引き止める。


 「いいもーん。一人で行っちゃうから」


  ズルズルと二、三歩引きずられると、しかしそう言って今度は忍の方が背を向けて見せる。


 「恭也が付き合ってくれないなら、誰か他の人、誘っちゃうよ?」


 「む」


 「忍ちゃんがちょーっと声かければ、その辺の男なんてすぐに寄って来ちゃうんだから」


 「…………」


  当然恭也はピタリと足を止め、不機嫌そうに眉をしかめ振り返るが忍は背を向けたまま。


 「恭也がイヤって言うんなら、ぱぴこだって他の人と――」


 「こら」


 「キャッ!」


  そこまで聞くと恭也は突然、その日の忍の服装からは少し浮いた、ゆるいチョーカーに指を引っ
 掻けて強引に引き寄せた。


 「いたっ、恭也ぁ」


  そのまま抱きすくめられると、とがめられた子犬の様に眉尻を下げ、くーんと上目遣いで恋人を
 見上げる忍。


 「悪い子だ……」


 「う〜ごめんなさぁい」


  恭也も路上であることも忘れて、忍の頭を抱えこみ耳元で話しかける。


 「そんな悪い子は、今夜もお仕置だぞ」


 「……ワン♪」


  ぴすぴすと鼻を鳴らして、胸元でそう一声小さく吠えた。


 「忘れるなよ。俺は何時だって、お前を縛ってるんだからな」


 「ハイ……すみませんでしたぁ」


  忍は額を擦り付けてしおらしい声で謝りながら、恭也の胸に手を滑らせると。


 「……ッ!?」


  シャツの上から胸板をスリスリ、顔を上げちろっと首筋をひと舐めして囁いた。


 「ゆるして下さい。ご・主・人……さ・ま」


 「……今すぐお仕置だっ!」


 「ひゃ〜ん♪」


  今夜はメイド服にしようか、いやいやその前に一緒にお風呂、その時にスク水……などヨコシマ
 な妄想のつまった風船と化した忍を脇に抱えて、恭也は月村邸へと足を速めたのだった。






  縛られているのは、はたしてどちらだろうか。






                                       了









  後書き:縛るのにストッキングは結構いい感じですな。
      上手くせんとわりとすぐ解けちゃいますけど。

      一部の方には愛が無いとも言われてしまった作品です。
      確かに当時は何とか甘いものを、と言う気持ちが先行していた気がします。
      同時に投稿したのがギャグだった事もあって。
      迷いましたが戒めの為にこのまま残しておくことにしました(便利な言い訳だ)。





  03/07/14――初投稿。
  04/11/06――加筆修正。

Mail :よければ感想などお送り下さい。
takemakuran@hotmail.com
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