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  〜てるてる坊主〜
  (Main:美由希 Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






 「ハイなのは、流すよー目つぶってー」


 「は〜い」


  言われた通りに大人しくギュッと目をつぶって、んーと構えると美由希の手でなのはの頭上に、
 風呂桶からお湯がザバーっとかけられていく。


 「……ぷぅ!」


  頭の泡を流される間、目と共にキツく閉じられていたその口が、空気を求めてぷはっと開かれる。


 「もう一回行くよ〜」


 「ん〜」


  もう一度、なのはは息を止めると姉から優しくかけられたお湯に、大人しく頭を流されていた。


 「よし、頑張ったね。なのはえらい」


 「えへへへヘ」


  濡れた髪を軽くふるふると振って水気を飛ばすと、よいしょと湯船へと移り湯につかるなのは。
 美由希はそれを見送ると今度は自分の頭を洗うため湯を被る。


 「それじゃそこで100数えたら、なのはは出よっか」


 「え〜ひゃくぅ〜?」


  美由希からの提案に、しかしなのははあからさまに不満げな声を上げる。


 「ちゃんと温まらないと。ね?」


 「う〜、でも……」


 「なのはは最初お湯につかってなかったでしょ?」


 「それは、そうですが〜」


  下を向いて頭を洗いながらくぐもった声で答える美由希に、なおも食い下がろうとする。熱い湯
 に百もつかっていると、なのはは確実にのぼせ気味になってしまうのだ。


 「頭クラクラしちゃうんです……あ、そうだ。あれを使えばいいんだ!」


  そうしてなのはは小さな両の手をぽんと叩くと、胸にその手をやりスーッと大きく息を吸った。




 「……だるまさんがころんださんしろうがわらったげんごろうがもぐったかみふうせんがきえた
  ゆうらんせんがゆれたへんとうせんがはれたカメレオンのあかちゃんチャンピオンのでかぱん
  アビニオンのぼうさんうちゅうせんがとんでくーおほーっほおほほっほ……♪」




 「……ほーらひゃくまでかぞえたよ〜♪」


 「こーら」


 「あうっ!」


  声高らかに一曲歌い終え湯から上がろうとした瞬間、隣からコツンと小さくゲンコツされた。


 「ズルしちゃダメだよ」


 「うう……ちゃんとひゃくかぞえたのに」


  さほど痛くはなかった筈だが、ぶたれた個所を両手で押さえながら涙目になるなのは。


 「それは百文字であって、百数えたんじゃないの」


 「美由希おねえちゃんのいじわる……」


  自分の頭にザバーっとかけ湯すると、先ほどの妹と同じように頭をプルプルと左右に振り。


 「そうやってズルっこしたり嘘付いたりしてると、悪い大人になっちゃうよ?」


  そうして全身を洗い終えると、美由希もよいしょっとなのはの隣に並んで湯につかった。


 「にんげんやむおえなく、ズルしたいときだってあるんですよー」


 「ナマ言ってないの」


  年頃の女の子にしては傷の多い肌で、ふぅ、とため息をつきながら。ゆっくりと湯の中に一日の
 疲れを溶かしていく。


 「……じゃあおねーちゃんは、ズルっこしないの?」


  一方なのはもそう言って、もう赤い顔をしながら不満げに、ぷぅ、と小さくふくれていた。


 「え? あ、あったりまえじゃないっ!」


 「ウソもついたことない?」


 「えっ? いや、その、それは……ね?」


  逃げる美由希にさらにずずいっと体を寄せ、下から見上げてこれまたググッと顔を近づけ迫る。


 「で、でも、それとこれとは話は別だよ」


 「う〜……」


  思わぬ反撃に追い詰められて明後日の方を向いて視線を泳がせる。なのははそんな美由希の顔を、
 まだ不信げにぢっと見つめていた。


 「……ね、ねぇなのは。話してる間に、随分時間経ったんじゃないかな?」


 「ほえ?」


 「だからあと20だけ数えて、出よ?」


 「あ、うん♪」


  その言葉に、なのはのすでに少しぼ〜っとなってきていた二つの目がパッと輝き。


 「ちゃんと肩までつかってね」


 「うん。ひとーつ、ふたーつ、みっつ……」


  そうして二人に笑顔が戻ると、美由希もなのはに声をそろえ一緒になって20数え始めた。






 「ここのつ、とお、じゅ〜いち……」


 「……ウソ、かぁ」


  しかしなのはの何気ない言葉は、美由希の心にちいさくしこりを残したのだった。






                     〜◆〜






  釣り上げた魚に案内され、海近くの洞窟に行くどーも。そこには氷漬けになったマンモスがいて。
 どこからか、声が聞こえてくる


 『ここは時の流れの中に住むものがいてはなりません。どーも、お前は帰りなさい……』


  潮が満ちた洞窟から抜け出して、夜の月が浮かぶ海を一人泳いで帰るどーもだった……


 「……名作だ」


 「あの〜恭ちゃん?」


 「ん? なんだ、美由希か」


  珍しく一人TVを見ていた恭也に、入り口からぴょこっと顔を覗かせた美由希が話しかける。


 「ちょっといいかな?」


 「ああ、構わん」


  ブラウン管に映る自作ビデオ、『どーも傑作選』をプチッとリモコンで消すと、恭也はクルリと
 美由希の方を振り返りさてと膝上に手を組んだ。


 「で、どうした美由希」


 「ん……ねぇ恭ちゃん、私達ってこのままでいいのかな?」


 「んん?」


  恭也の隣にポスンと腰掛けると、こちらは膝の上に両手をグッとこぶしを作って。美由希はやや
 俯き加減にぽしょぽしょと話し始めた。


 「私達が、その、つ、付き合い始めて、だいぶん経つよね」


 「ん、あ、ああ」


  付き合う、ぐらい普通に言ってくれればまだ軽く流せたのだが、美由希の緊張につられて恭也ま
 でもがどもってしまう。誤魔化すように視線をさまよわせ、指折り数えながら頷いた。


 「私達の事、いつまで皆に黙ってていいんだろ」


 「それは……」


 「このまま皆に、ウソついたままでいいのかな」


  自分で言った、嘘、という言葉にまた美由希の表情が硬くなる。


 「嘘、ついてる事に、なるよね」


 「ん……多分、な」


 「わたし、さっきなんだかちょっと辛くなっちゃって……」


  膝上で握った拳にキュッと力がこもる。なのはとの会話が、美由希の良心を刺激したようだ。


 「そうだな」


  そんな美由希の真剣な横顔を見て、隣の恭也の顔も徐々に引き締まっていく。


 「俺も確かに、初めはいつ皆に話そうかを迷っていた」


 「わたしもそうだった。でも……」


 「だがいつしかバレないことをいい事に、俺達は今の状況に甘えていたのかもしれんな」


  コクリ、と無言で頷く美由希。


 「……とりあえず、かーさんにだけでも話して相談してみるか」


 「そうだね……それが、いいかも」


  おそらく二人の中にはこの答えがすでに存在していたのだろう。後は行動へと踏み出す勇気に、
 互いの話し合いが必要だったのだ。


 「近くかーさんに時間を作ってもらって、話を聞いてもらおう」


 「うん」


  決めてしまえば後は野となれ山となれ。心のつかえが取れ、晴れやかな顔で頷く恭也。だがそれ
 に対し美由希はその表情にまだ影を残していた。






                     〜◆〜






 「でもやっぱり、まずいのかな」


 「なにがだ?」


  話も終わったとみて、リビングから去るべく立ち上がり恭也はんーっと一伸びする。が、美由希
 はまだ座ってうつむいたまま、手をもじもじと前でもてあそんでいた。


 「その、だって私達って兄妹だし、あイトコだけど、その、従兄妹でも……」


  あたふたと意味不明な身振り手振りを交えながら説明する美由希。もちろんその事も皆含めて、
 桃子に相談に行く訳だがやはり不安がぬぐいきれないのであろう。


 「……反対とか、されちゃうかな?」


 「…………」


  すがるように、キュッと服の裾を掴みながら濡れた瞳で恭也の顔を見上げた。


 「何を言っている」


 「えっ?」


  だがやがて暫く押し黙っていた恭也がふぅと息をつくと、口元に小さく笑みを浮べて。隣に座り
 直すとくしゃくしゃと乱暴に美由希の頭をかきまわし。


 「安心しろ。何も、悪い事はしていない」


 「……うん」


 「それに、その……イトコ同士はけ、結婚だって出来る」


 「あ、う、うん」


  自分の、結婚という言葉にしどろもどろとなり、つられて美由希も顔を赤くする。恭也の方にも
 まだまだ修行が足らないようだった。


 「そりゃかあさん達が知ったら、少しばかり驚くかもしれんが……」


  やや気まずそうに天井を見上げながら恭也はポリポリと頭を掻き。


 「もう一度言う。何も悪い事はしていない」


  だが美由希の肩を掴んで振り向かせると、しっかりとその顔を見詰め。


 「もし何があっても、俺が守ってやる」


 「あ……」


 「……誰にも、邪魔はさせない」


  恭也ははっきりと、自分の大切な恋人にむかってそう言った。


 「ぅ、きょう、ちゃん……」


  赤い顔でやや呆けたように聞いていた美由希だったが、恭也の言葉にだんだんとうつむいていき、
 その肩が小刻みに震え出す。


 「なぜ泣く、美由希」


 「うう、だって」


  やがてぽろぽろと大きな瞳から涙があふれ出すと、雨のようにそのメガネや頬を濡らしていった。


 「嬉しい時にも、涙が出るんだよ……」






                     〜◆〜






 「……よーやく話してくれたんだ」


 「「えっ?」」


  翌日。二人の告白に沈黙を続けていた桃子が発した最初の一言に、前で地蔵のようにコチコチに
 固まって正座していた恭也と美由希は、驚きの声を上げた。


 「かーさん……知ってた?」


 「もちろんよ」


  あったりまえじゃない、と手を振りながらさも可笑しそうに笑って。


 「分からないとでも思った?」


 「うう……」


  桃子の斜めに浮べた意地悪げな笑みに、美由希はうっと唸る。


 「こっちはいつ話してくれるかいつ話してくれるか、そう思って待ってましたけど」


 「……もうしわけない」


  全てを知りつつ、自分達から言い出すのを待っていてくれた。そんな母の気持ちを知った恭也は、
 心から深く頭を下げる。


 「ずっと兄妹だった、ほんとは従兄妹同士の恋、か……」


  だが一転真面目な表情になると、桃子はアゴに手をやりため息のように呟き。


 「でもなんだかんだ言って、これから大変よ?」


 「分かっている」


  どうする気? と心配する桃子に、恭也は美由希の方をちらりと見ると、自らの決意を露にした。


 「たとえどんな事があっても、俺は美由希と一緒に居るつもりだ」


 「わ、わたしも、です!」


 「……そっか」


  硬い表情でそう宣言する二人の様子を見た桃子は、また押し黙って暫く何事か考え込んでいたが、
 やがて一人ウンと頷くと、顔を上げ。


 「美由希、お裁縫箱、持ってきてくれる?」


 「? う、うん」


  何と言われるのか、と緊張の糸を張り詰めて構えていた美由希だったが、桃子の意外な言葉に、
 戸惑いながらも立ちあがって裁縫箱を取りに走った。


 「あなた達に、ひとつあげる物があるの」


 「あげるもの?」


  桃子は運ばれてきた裁縫箱を受け取ると、針や糸を取り出して何かを作り始める。


 「あ、ちょーっと待っててね。できればこっちは見ずに」


 「あ、はい」


  言われた通り律儀にも後ろを向く恭也と美由希。桃子は手際よく針を進め、ものの10分ほどで
 それは出来あがった。


 「はい、もういいわよ」


  桃子の言葉に再び正面を向く。と、その手にあった物に視線が集中する。


 「これは……」


 「てるてる、坊主?」


 「そ♪」


  桃子の手から二人に手渡されたもの。それは小さな二つのてるてる坊主だった。


 「あなた達に、とーさんとかーさんの事。少し話してあげるわ」


 「とーさんと、かーさんの?」


  そう、と頷くと桃子は自分の思い出を懐かしそうに、少し遠い目をして語り始めた。


 「私達もね、若かったし、結構急だったから、縁者の中には反対する人も居たのよ」


 「そうだったんだ……」


 「それにほら、あの人一見プータローみたいな風貌してたし」


  ケタケタっと笑い声を上げる姿に、恭也も思わず苦笑を漏らす。


 「でも私達は半ばそれを押しきって、結婚したの。誰にも邪魔させないって」


  本当に若かったからね、と微笑んだ桃子。それを聞いた恭也と美由希は思わず互いの顔を見詰め
 合い、複雑な表情を作る。


 「……でもね、かーさん今でも、後悔してる所があるの」


  勿論結婚した事じゃなくてよ? とちょっと悪戯っぽく笑いながら。


 「かあさん、その人達ともっと話し合えばよかったって。自分達の事を、もっともっと理解しても
 らえばよかったなーって」


  そうすれば、もっとたくさんの人に祝福してもらえたかもしれない。そう付け加え。


 「私達二人は一緒にいるだけで、幸せだった。でもどうせなら、皆が幸せの方が素敵じゃない? 
 だからあなた達には周りも含めて、みんなで幸せになって欲しいの」


 「かーさん……」


 「…………」


  桃子の話にすでに美由希は目を潤ませ、恭也は神妙な面持ちで聞き入っている。


 「でね、結婚する時、私達はそのてるてる坊主をつくってこう誓ったの」


  皆の視線が再び美由希達の手に集まる中、思い出をなぞるようこう言った。




 「たとえ雨が降っても、風が吹いても。二人いつまでも一緒に居ましょうね……って」




  桃子の言葉に、暫し呆けていた恭也と美由希がふと顔を上げると、もう母の瞳はじっとこちらを
 見詰めていて。


 「あんた達にも、それをあげるわ」


  二人の手からぶら下がったてるてる坊主を、桃子は指でコツンとぶつけ合い。


 「だから、必ず幸せになんなさい♪」


  にっこりと、笑った。






                     〜◆〜






 「かーさん……ありがとう」


 「……ありがとう」


 「うん。さ、ちょっとお茶にでもしよっか?」


  恭也達が改めて深々と頭を下げると、桃子はあははと笑いながらそう言って席を立つ。


 「恭ちゃん」


 「美由希」


  残された二人はお互い顔を見合わせると、ちょっと顔赤らめて俯き。手に持ったてるてる坊主を、
 小さくコツンとぶつけ合ったのだった。




 「雨が降っても……」




 「風が、吹いても」




 「「二人、いつまでも一緒に居よう……」」






                     〜◆〜






 「……今日は、ここまで」


 「はぁ、はっ、あ、ありがとうございました」


  その夜。いつも通り鍛錬を打ち合いで締めた二人だったが、終わると同時に美由希は普段よりも
 荒い息をつき、がっくりと地に膝をつく。


 「集中力が欠けている。これ以上はやめておこう」


 「あ、うん、はい……」


  暗い顔で肩で息する美由希。時間的には早いほどであったが、集中力の欠如のせいかより体力の
 消耗を引き起こしたようだった。


 「俺は後片付けをしておく。お前はゆっくりとクールダウンしていろ」


  だがその日の恭也はそれ以上、何も言わなかった。


 「…………」


 「…………」


 「……ねぇ」


 「ん?」


  二人の間にすこし重い空気が漂っていたが、それでも沈黙している方が耐えられなくなったのか。
 闇の帳を破って美由希が静かに口を開く。


 「恭ちゃんは……どう、思った?」


 「何がだ」


 「今日の、かーさんの話だよ」


 「ああ……」


  恭也はその事か、というように一度空を見上げたが、また無言のまま後片付けを続けている。


 「雨が降っても、風が吹いても、かぁ」


  そう呟いてごそごそとポケットをまさぐり、美由希が取り出したのはあの時桃子にもらったてる
 てる坊主だった。


 「お前も持ってきていたのか」


 「え? じゃあ、恭ちゃんも?」


  ああと同じように懐から、同じくてるてる坊主を取り出す恭也。その顔にはあの後美由希の手に
 よって、穏やかなメガネの笑顔が描かれていた。


 「そっか。恭ちゃんも、持ってきてくれてたんだ」


  対する美由希の持つてるてる坊主には、こちらは恭也の顔であろうか、眉をしかめた気難しそう
 な目鼻口が描かれていた。


 「持って来たと言うか……身に付けていただけだがな」


  大きい物でもないしな、と鼻を掻くが、美由希は嬉しそうに微笑んでいる。


 「えへへ。でも恭ちゃんが鍛錬の時にも持ってるなんて。 ……ちょっと、意外」


 「まぁ、それは、な」


 「え?」


  片付けを終え、すっくと立ちあがった恭也だったが美由希の方は振り返らない。


 「……お前も、持ってくるんじゃないかと思ったから」


 「恭、ちゃん……」


  そう背を向けたまま、少し恥ずかしそうに呟いた恭也の背中に、美由希はそっと、両手で触れる
 ようにしてもたれかかった。






                     〜◆〜






 「やっぱり、みんなにも話すの?」


 「そうだな……」


  二人並んで木にもたれながら、恭也は目の前にてるてる坊主を持ち上げ、ふぅと息を吐く。


 「正直、皆に話すかどうかは迷っていた。とりあえずかーさんに話そうとは決めたが、他の皆にも
 話すかどうかは、まだ、決まらないでいた」


  そうして自分の気持ちを定めたのか。寡黙な恭也が饒舌とも言えるほど一気に話し始めた。


 「うん。わたしも、同じだよ」


 「不安だったんだな。皆にどう思われるか、言われるか。だがかーさんの話を聞いて……やっぱり
 皆にもちゃんと話すべきじゃないか。そう思ったんだ」


 「そう、だよね」


  空を見上げる恭也。地を見つめる美由希。


 「よくよく考えてみればあの家の連中だ。たとえ今まで兄妹だったとしても、本当はイトコ同士だ
 としても、きっと祝福してくれるだろう」


 「そうだよね。うん……ウンウン! そうだよね、そうだよねっ」


 「まぁ、話は親しい人達だけじゃないんだがな」


  恭也の言葉を聞くにつれ一人だんだんと盛り上がってきている美由希をいさめるように、ポンと
 頭に手をやるとゆっくりくしゃくしゃと優しくかきまわす。


 「見ず知らずの人間にだって、いわれない偏見を受けるかもしれん」


 「うん……」


  むしろそっちの可能性の方が高いかもな、と恭也がため息をつくと美由希も寂しそうに頷いた。


 「美由希」


 「ん?」


 「昨日の言葉、訂正させてくれるか」


 「え? う、うん」


  そこで恭也は美由希の肩を捕まえて正面を向かせると、しっかりとその顔を見つめて。


 「美由希、イトコ同士は結婚も出来る。だから俺達は、何も悪い事はしていない」


 「うん」


 「もし何があっても、俺がお前を守ってやる」


 「うん……うれし」


  一度聞いたものでも、やはり美由希にとってはこの上なく嬉しい言葉で。ぽっ、と頬を染めると
 もぞもぞと背中がむず痒い。


 「……だから、もし誰かに反対されても。二人で一緒に説得しよう」


 「あっ」


  恭也は手にてるてる坊主を持つと、かかげて美由希に見せながらそう続けた。


 「皆で幸せになるために、な」


 「うん。ぅ……ん」


  やはり手にてるてる坊主を持ち、赤い顔で恭也を見上げていた美由希だったが、急にうつむいて
 しまい、肩が小刻みに震え出す。


 「またか、美由希」


 「うう、だって、だって」


  ぼろぼろと大粒の涙がその瞳から零れ落ち、頬を伝い地面を濡らしていく。だが美由希の顔は、
 涙を流しながらも今度ははっきりと笑顔と分かるものだった。


 「やっぱり嬉しい時にも、涙が出るんだよ……」






                     〜◆〜






 「……ネェ、恭ちゃん?」


 「なんだ?」


 「今夜は、その、一緒に居てもいいかな?」


 「む……ま、まぁいいだろう」


 「えへへへヘ……」


  先ほどの涙のせいか、鼻まで赤くした美由希が体を寄せ、肩にグリグリと頭を擦り付けてくる。
 その後頭部をゆっくりと撫でつける恭也の胸に、体温と共に温かい気持ちが満ちていった。


 「……ただ、そのまま明日の朝誰かに見つかって、なし崩しに発表するのだけは避けたいな」


 「そ、そだね。それはちょっと、ヤかも」


  ありえない事でもないかも、と少しだけうそ寒い空気が二人の間に流れた。


 「ん、きょーおちゃん」


 「む」


  と、上を向き、ゆっくりと瞳を閉じる美由希。


 「……美由希」


 「んん。あ、スキ……」


  ちょっと面食らった恭也だったが、やがて意味する所を理解すると、軽く辺りを見回してから。
 重ねた手の中のてるてる坊主達と共に、二人の影が重なった。






  たとえ雨が降っても。




  風が、吹いても。




  二人いつまでも 一緒に居よう。




  そうしてみんなで 幸せになろう。






  お約束として後に二人がその関係を告白した時。皆二人がまだ気付かれていないと思っていた事
 の方に驚くのは、また別のお話。






                                       了









 後書き:う〜んやっぱり3は勝手が違うと言うか、ちとムズイ。
     桃子さんは好きなんだけどなぁ。





  02/11/03――初投稿。
  04/10/20――加筆修正。

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takemakuran@hotmail.com
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