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  〜月がとっても青いから〜
  (Main:リスティ Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






  綺麗な厚表紙の童話の本をぱたりと閉じてしまうような。しまいわすれた風鈴が忘れられた死刑
 囚のように吊られて鳴っている夏の終わり。


 「花火?」


 「うん」


  明日の仕込みなど全てを終え、リビングのソファーで一息ついている耕介の元に、ポテポテと寄
 ってきたリスティが呟いたのがその一言だった。


 「見た事なかったっけ?」


  コクリ、と頷き返すリスティ。その答えに耕介はアゴに手をやり首をひねる。


 「あれ? でもこの間美緒たちと一緒にやってたじゃないか」


 「あれじゃなくて。こう、空に上がるやつだよ」


 「ああ、打上げ花火か」


  軽く手を上げてジェスチャーするリスティの説明に、納得しながらも再び首をひねる。


 「そう言えば俺も長いこと見てない気がするなぁ」


 「だったら……」


 「でもなぁ。もうちょっと早く言えよ」


  可愛いリスティの頼みだと、耕介も見せてやりたい気持ちはやまやまだったが、いかんせんすで
 に八月が終わろうとしており、打上げ花火が上がるような時期には遅いと思われた。


 「……色々と、忙しかったんだよ」


  その事はリスティ自身も分かっているようで、少し気まずそうに視線をそらす。


 「遊びに、だろ?」


  意地悪くニヤリと笑いながらそう言われると、ますますリスティの視線が逸れていく。耕介には
 その態度が頼むのが遅れた事だけではないのが分かっていたのだ。


 「随分とこの夏はエンジョイなさっていたご様子で」


 「それは……」


 「それで夏休みの宿題だってひーこら言ってたし」


 「……自由研究なんてやったことなかったんだ」


  普通の勉強は楽勝だい、とプイとそっぽを向いてふてくされて見せる。が耕介がごめんごめんと
 笑いかけながらやや乱暴に頭を撫でてやると、リスティは首をすくめるがその手を払うでもなく。


 「まぁ俺としても連れて行ってやりたいが……」


 「やったぁ」


 「待て待て。ただやってるかどうかが問題なんだよ」


  もらした呟きにわざとらしくバンザイして見せるリスティを、慌てて手で制する耕介。たとえこ
 ちら側につもりがあっても、実際問題やっていなければどうしようもない。


 「どこかにないのかな?」


 「盆過ぎてるからなぁ。難しいかもしれん」


 「そうなんだ……」


  予想していた事とはいえ、やはり残念なのだろう。がっくりと肩を落とす。


 「よし、探してみよう。ただ見つからなくても文句は言うなよ」


 「う……ん」


  耕介がパンと膝を叩いて立ち上がりながら、なんとかなるさと約束するとまだ俯き加減だったが
 リスティは、ウンと小さく微笑んでみせた。


 「それにしても、なんで突然そんなモノ見たくなったんだ?」


 「それは、その、美緒の奴が……」


 「自慢されたのか」


 「……うん」


  そんな事だろうと思った、そう心の中で呟くと、耕介はただ肩をすくめるのだった。






                     〜◆〜






 「おいリスティ、見つかったぞ」


 「ホント?」


 「ああ、わりと近所でお祭りがやるそうだ。そこで花火も上がるんだと」


  次の日の夜、耕介の部屋で祭り発見の報告を聞いたリスティは、驚きと喜びが入り混じった表情
 で目を輝かせた。


 「よくやってたね。珍しいんでしょ?」


 「とある企業が主催するやつだから、ちょっと遅目だったらしい」


  耕介はベッドに腰掛けたまま、カラーBOXの上に置いてあった2枚の紙を差し出す。


 「ほんとは社員関係者のみらしいんだけどな。だから、ほら」


 「あ、入場券がいるんだ」


 「ちょっとしたつてで手に入れたんだ。そのかわり2枚しか手に入らなかった」


 「そうなんだ」


  返事を返しつつもリスティは渡された青いチケットから目を離そうとはしない。


 「だからお祭りには、二人っきりって事になるな」


 「……二人、だけ?」


  まだぢっとチケットを見つめていたリスティだったが、二人っきり、と言う言葉に反応して顔を
 上げ耕介の顔を振り向いた。


 「イヤか?」


 「ううん」


  リスティは慌てて首を横に振って否定する。


 「よかった。知佳達にはナイショだぞ?」


  バレたらうるさいだろうからな、と人差し指を口に当てて声をひそめ。


 「うん」


 「じゃあ愛さんにだけは伝えてあるから、当日脱出の計画を練ろうか」


 「ウン♪」


  よしよしとチケットを受け取り、具体的な日程を話し始めると、リスティは耕介の隣にポスンと
 腰掛けて嬉しそうに頷いていた。






                     〜◆〜






 「お、来たか」


 「お待たせ、耕介」


  そして祭りの当日。打ち合わせ通り外で待ち合わせしていた耕介の元に、銀色の髪を揺らしなが
 らリスティが駆け寄って来た。


 「普段着か」


 「うん。変かな?」


  やってきたリスティは普段通りのシャツとジーンズ姿で、くるりと回ってみせる。


 「いや、でも浴衣姿なんてのも見たかったけどな」


 「だって一人じゃ出来ないし、愛にやってもらうわけにも、ね」


 「まぁしょうがないか」


  それは今度のお楽しみという事にしようか。そう付け加えるとリスティは素直に顔を赤くして、
 はにかみ。


 「今日はお忍びだもんね」


 「そうだな。お忍びだもんな」


  お忍び、という言葉になんだか楽しくなって、二人顔を見ながらフフフと笑い合う。


 「じゃあ行こうか」


 「歩きでいくの?」


 「駐車場を使ってやるそうだ。だから車やバイクは使えないんだよ」


  無理に使う事もあるまいと耕介はリスティの歩幅に合わせて少し遅目に、ポテポテと二人は並ん
 で歩き始めた。






                     〜◆〜






 「ここが……」


 「ああ、露店も結構出てるし、なかなかよさげな感じじゃないか」


  そうしてたどり着いたのはある企業の駐車場である祭りの会場。そこはすでになかなかの賑わい
 をみせていた。


 「人が多いね」


 「予想以上にな」


  なかなか所ではなく、すでに人がごった返している状態だった。予想以上の人出に、耕介はやや
 圧倒されて周りをぐるりと見まわす。


 「さて、何から食べようか」


 「いきなり食べるの?」


 「祭りってのはそういうもんだ」


 「ふ〜ん……」


  さすがのリスティも同様にきょろきょろと物珍しそうに辺りを見まわしている。


 「あ、ほら、わらび餅だ」


 「なにそれ?」


 「食べた事は……無いか」


  無言で頷くリスティ。当たり前かと耕介は軽く手を上げてリスティをそこへ待たせると、店の方
 へと駆け出した。


 「冷たくて美味しいぞ」


  買って来たわらび餅をカップからひとかけ、爪楊枝に突き刺して目の前に差し出す。


 「どうだ?」


  そのまま口元まで持っていってやると、リスティは耕介の手ずからパクッと食らいつく。


 「うん、美味しい」


 「そっか。よかった」


  リスティの上々の反応に頬をゆるませると、耕介はわらび餅をカップごと手渡す。


 「ちょっとひとかけが大きいけど」


 「はは、まぁそこはそれ、素人さんみたいだし」


  よく見ると露店の店員は小汚いおっさんではなく、若い女の娘が多くやっていた。おそらくこの
 祭りを主催した会社の社員か何かなのであろう。


 「リスティ、俺にも一口」


 「……ハイ」


  その後も何度かリスティの手からわらび餅をご相伴しながら。耕介達は祭りの会場を練り歩いて
 いった。






                     〜◆〜






 「次は風船釣りなんかどうだ?」


 「風船を……釣るの?」


  ああと耕介が頷くと、釣ってどうするの? とリスティはしきりに首をひねっている。


 「まぁ釣ってみてのお楽しみさ。ほら、やってごらん」


  このこよりで釣るんだ、と耕介は金具の付いたこよりを手渡す。リスティは周りの客の様子を見
 ると、自分も同様にしゃがみこんで風船釣りにとりかかった。


 「俺もやろっかな」


  ひさびさの夜店の光景に刺激されたのか、耕介も店のおねーちゃんに100円支払うと、釣り針
 を受けとって色とりどりの水風船が浮く水槽の前にしゃがみこんだ。


 「……う〜ん、腕が落ちたか?」


  暫く悪戦苦闘していたが、気が付くと一個も取れず耕介のこよりは濡れて切れてしまっていた。


 「ん? のわっ?!」


 「耕介、釣れた」


  ふと袖を掴まれ隣を振り向く、とそこには大量の水風船をぶら下げたリスティが立っていた。


 「おいおい10個近く付いてるぞ。店のおねーちゃんも周りの客も絶句しているじゃないか」


 「ズルしてないよ」


  力を使ってはいないという事なのだろう。そう言って水風船を掲げるリスティからは、人前だか
 らかあまり表情には出していないが、誇らしげな態度が見て取れた。


 「じゃあリスティの分と俺の分、2つだけ貰っていこう」


  ぽふっと頭に手を乗せてそう言うと、リスティはちょっと残念そうな、複雑な顔を作る。


 「……こんなに釣ったのに?」


 「それがマナーってもんなのさ」


  かわりに全然釣れなくても、一個は貰えるもんだからなと耕介が片目を瞑って見せると。


 「わかった」


  素直に頷いて風船を水槽に戻すリスティ。そうして自分には青い、耕介には赤いのを選んで手渡
 した。


 「これ、どうするの?」


  店の前から離れて再び歩き出すと、すぐにリスティが袖を引っ張る。


 「ああ言ってなかったか。ほら、こうやってヨーヨーみたいにして遊ぶんだ」


  耕介は水風船についたゴム紐を中指に付けて、バインバインと手で弾き上下させてみせる。


 「ふーん……」


  それにならってリスティも2、3度水風船を上下させる。


 「ん? どうだ?」


 「……よくわかんない」


 「そっか」


  しかしリスティはその後も歩きながら、無言で何度も水風船を上下させていた。ひょっとして気
 に入ったのかな、とそう思ったが耕介は特に何も言わなかった。






                     〜◆〜






 「あ、耕介、あれ」


 「ん?」


  ついでに買ったカトちゃんのお面を後頭部に付けた耕介が、リスティの指差す方を見ると。


 「TVでやってたやつだね」


 「あれ以来よく見るイベントになったからな」


  そこで行われていたのは九つの的をサッカーボールで打ち落とすという物だったが、詳しい名前
 は耕介も知らなかった。


 「本家の番組は終わっちゃったのになぁ」


  子供向けに行われているのか、小さな子連れの親子らしき人達が並んで順番を待っている。


 「家ではよく美緒や真雪が見てたよ」


 「そうだったな」


 「終わっちゃったって文句言ってた」


 「……あの二人、実は賭けて見てたんだよなぁ」


 「そうなの?」


 「あの手の番組は思わせぶりな事を言って、視聴者を煽るだけ煽るんで、実は結果が読み難いんだ
 よなぁ」


  だからよくおやつなんかを賭けて見ていたんだよ、と耕介が説明するがリスティの視線はすでに
 何処か余所の方を向いており。


 「あっ!」


  耕介も目を向けると現在挑戦中の小さな女の子の蹴ったボールが、見事に的を射ぬく。だが耕介
 は見ていた、ボールが的に当たる瞬間に不自然にホップした事を。


 「……リスティ、力使っただろ」


 「サービスだよ、サービス」


  今日はお祭りなんだから、と悪戯っぽく微笑む。


 「……そうだな。お祭りだしな」


  耕介はそんなリスティの頭に手をやると、くしゃくしゃとその銀色の髪をかき回した。


 「でももうこれまでな」


 「うん、わかった」


  それ以上は何も言わず。ぱいんぱいんと水風船の音だけを鳴らしながら、また二人はゆっくりと
 歩き出した。






                     〜◆〜






 「おっ、と」


  突然目の前を駆け抜けていった小さな男の子を、耕介はぶつかるすんでに避けた。


 「よく見ると外国人が多いね」


  男の子はほりの深い顔をしてた。南米か中東系だろうか、日本人では無い。


 「ああ、ほらあれ、あそこに見える工場。あそこに勤める人たちらしい」


  大きな企業の工場だから、と改めて周りをぐるりと見まわすと、外国人らしき親子連れがそこか
 しこに存在していた。


 「……これならボクも目立たないかな」


 「ん?」


  リスティの顔を覗き込むが、まるで何事も無かったかのように他所を向いている。だが耕介は、
 その小さなつぶやきを聞き逃さなかった。


 「……そんな事ないだろ。目立つよ、リスティは」


 「え?」


  思いがけず頭上から降ってきた耕介の言葉に、リスティは不安そうに思わず顔を見上げる。


 「どうして?」


 「リスティみたいな美人さんは、どうしちゃって目立っちゃうさ」


 「……バカ」


  耕介がウィンクを返してやると、リスティは瞬間目を大きく丸くして。ぷいとそっぽを向くが、
 その頬はほんのりと赤かった。


 「しかし予想以上に人が多いな」


 「すごいね。耕介、迷子にならないでね」


 「俺がなるのかよ」


  眉をしかめて突っ込む耕介の顔を見て、先ほどの仕返しかクスクスと笑いを漏らす。


 「ボクの方は、はぐれるほど抜けてないから」


 「んじゃ、二人はぐれないように手を繋ごっか」


 「……いいよ」


  しかし差し出した手から逃げるように、明後日の方を向いてしまったリスティに耕介は少し寂し
 そうに苦笑すると、その手を所在無さげに引っ込めたのだった。






                     〜◆〜






 「お、そろそろ花火みたいだな」


 「うん」


 『さぁ、いよいよ最後のイベント、打上げ花火です!』


  ステージの上で司会者が叫ぶと、にわかにシーンと沈黙が流れる。二人が無言で見上げていると、
 やがて静かにヒョロヒョロと一筋の光が夜空を登った。


  パッ、パパッ!


 「お」


  パパッ、パパッ、パパパパパパパパッ。


 「おおっ?」


  バンバン、バラバラッバラバラバラバラババラバラバラバラバ……ッ!


 「おおをおおおおをっ?!」


  最初に数発、閃光が上がったかと思うと、その後凄まじい光と爆音が連続して夜空に舞い上がる。


 「こ、これは」


 「これが、打上げ花火……」


  リスティが軽く口を開けたまま打上げ花火に魅入る中、なおも派手な閃光と爆音は続き。耕介も
 少し唖然としながら夜空を見上げていた。


 「これはちょっと、派手過ぎるかな……?」


 「すっごい白煙」


  恐らく打上げ元だろう、地面の方からモウモウと白い煙が上がっている。


 「まるで集中烽火みたい」


 「ああ、すごい音だしな」


  あたり一面に響く、耳がおかしくなりそうなほどの炸裂音。その時クイクイと袖が引っ張られ、
 耕介は身をかがめるとリスティの顔に耳を寄せた。


 「あのね、その内『撃ち方やめーッ』って言うよ」


 「んで、小隊長が『やった、か……?』ってつぶやくんだな」


 「うん、そうするとあの白煙の向こうから……」


 「グワッ! と怪獣が姿を見せる、と」


 「そうそう」


 「……また美緒と特撮ビデオ見てただろ」


 「あはは♪」


  それほどの白煙。そしてなぜか地面の方を見つめるリスティ。耕介もつられて視線を下に向ける。
 そこでは上空の閃光で地面に落ちた影が、様々な角度に踊っていた。


 「なんだか昔のディスコの照明みたいだ」


 「なんでそんな事知ってるんだよ」


  それほどの閃光。その後も派手尽くめな花火は続き、二人は暫し声も無く夜空に踊る光りの狂演
 を眺めていた。






                     〜◆〜






 「どうしたの耕介?」


 「う〜ん……」


  そうして帰り道。控えめだが確かに満足げな表情で足取りも軽いリスティとは対照的に、耕介は
 終始首をひねり続けていた。


 「なにかあった?」


  繋いだ手を軽く引きながら、リスティは少し不安げに耕介の顔を覗きこむ。


 「ひょっとして、ボクときたこと後悔してる?」


 「は? まさか」


 「じゃあ……」


 「花火が、なぁ」


 「花火?」


  耕介の憂鬱の原因は先ほど見た花火にあった。あれが、どうにも納得がいっていなかったのだ。


 「ボクはあれはあれで、結構気に入ったけど」


 「うーん……あのな、俺んちの実家のそばにさ、長い坂があったんだ」


  耕介は暫く押し黙って何事か考えた後、少し宙を見上げると、ゆっくりと口を開いた。


 「その坂の一番上に立つと、目の前にさえぎる物が何も無くってさ。結構遠くでやってる花火が、
 よく見えたもんなんだよ」


 「そう」


 「遠いから、あんまり音は聞こえなくってな」


  もうリスティに話しかけているのか、自分自身に話しかけているのか。それが分かっているのか、
 リスティも軽く相づちをうつだけで大人しく聞いている。


 「時折聞こえる光りと合ってない低い音と一緒に、まあるい、打上げ花火を見てたんだ」


  だからなぁ、と一息つく。


 「なんだかこう、自分のイメージと違ってな」


  俺自分の気持ちのせいかもしれないけどな、と耕介はポリポリと後頭部を掻いた。


 「どんな感じなの?」


 「ん? なにが?」


 「耕介の花火」


 「ああ、そうだなぁ……」


  リスティの疑問に、耕介はスッともう一度宙を見上げる。何気にした行動。だがその日は神様が
 答えを用意してくれていた。


 「あんな感じだ」


  ふと立ち止まって、繋いでいた手を離す。と、耕介はポケットに無理矢理突っ込んだままだった
 水風船を取り出し、空に掲げた。


 「あ……」


  月。


 「そ。あんな風な、月みたいにまあるくってな」


  見上げた夜空の先、そこにぽっかりと浮かんだ丸い月に手に持った水風船を重ね。


 「ちょっと神秘的なほど、綺麗なもんなんだぞ」


  ただ今空にあるものはやや欠けているのか、満月ではなかった。


 「……そっちも見てみたい。ボク」


  熱っぽく語る耕介にあてられたのか、そうリスティは静かに声を強める。


 「ああ、いつか見に行こう」


 「ホント?」


 「約束だ。今年はダメでも、きっといつか見せてやるよ」


 「うん、待ってる」


  ああ、と耕介が強く頷いてやると、リスティの顔が花火のようにパァっと輝いたのだった。






                     〜◆〜






 「さて、行くか」


 「…………」


 「ん? どした」


  再び一緒に歩き出そうと、目の前に差し出された耕介の手を見たリスティは一瞬固まり。そうし
 て自分もおずおずと手を差し出した。


 「イヤか?」


 「嫌って訳じゃ、ないけど……」


  嬉しさ、恥ずかしさ、複雑な気持ちにもじもじと身をよじるリスティ。そんな様子を見た耕介は、
 ふっと微笑みながら手を引っ込めた。


 「俺はリスティと手を繋げないのは残念だなぁ」


 「……耕介は、ボクと手を繋ぎたいの?」


 「ああ、繋ぎたい」


  予想外だったのか、間髪入れずはっきりとそう答えた耕介の顔を、リスティは怪訝そうに見詰め
 返す。


 「なんで?」


 「俺は今、さんちまんたりすむな気持ちなのさ」


 「……なんだいそれ」


  ちょっとふざけた口調で指を振る姿に、リスティもやや呆れ気味に肩をすくめる。


 「ちょっと悔しいけどお前の手は、そう、今よりずっと大きくなってしまうんだろうなぁ」


 「それは……」


 「でも今は、まだほら、俺の手の中に入るから」


  スッと、手を取る。まだ小さなリスティの手の平は、全て耕介の手の中に隠れてしまった。


 「だからもうちょっとだけ、こうやって手を繋いでいたい」


  ダメかい? ともう一度手を差し出す。


 「……今だけだよ」


  それに顔を赤くしながらも差し出してくれたリスティの手を、耕介はにぱっと笑顔で頷くともう
 一度しっかりと握りなおした。


 「ウンウン、月がとっても青いから〜♪」


 「…………」


 「遠回りして、帰ろっか?」


 「なんで?」


 「そういうもんなんだよ」


 「……わかった」


  大げさに前後に手を振ってみると、やがてリスティもしっかりと耕介の手を握ってきて。淡い月
 明りの中二人並んで歩き出した。






  月がとっても 青いから。






                     〜◆〜






  そして数年後。リスティはもう、耕介と手を繋いで歩いてはいない。


 「お、おい、リスティ、当たってるぞ」


 「フフフ、嬉しいくせに」


 「……心を読んだのか?」


  まだ随分と差はあるが、リスティの手は耕介の手に完全に包まれてしまう事はなくなった。


 「そんな事しなくたって、耕介の顔を見れば分かるよ」


 「……さいでっか」


 「あはは、安心して耕介? ボクは耕介の、そんな所も好きだから」


 「そりゃどーも」


  でも二人は現在そんな理由で手を繋いでいないわけではなかった。


 「そんな単純で、スケベな所も、ね」


 「…………」


 「あはははははははは♪」






  二人は今、腕を組んで歩いているのだから。






                                       了









  後書き:これもずいぶん昔の作品ですね。書いた当時何が言いたかったかというと、
      最近の花火はなんだか派手すぎじゃないかい?と言う事だったり。
      閃光系が多いというか……爆竹みたいで。昔はもうちょっと大人しかった気が。
      流行りなのか、単に私が年取っただけだったのか。むぅ。





  02/09/26――初投稿。
  04/10/20――加筆修正。

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takemakuran@hotmail.com
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