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  〜夜間飛行〜
  (Main:忍 Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






 「ねこー? 悪いけど、ちょーっと出ておいてもらえるかな」


  そう言いながら下着にシャツだけという格好の忍が抱き上げると、胴を掴まれたねこは抗議の鳴
 き声をあげながら、だらーんとだらしなく後足を伸ばしたまま扉の向こうへと追いやられた。


 「追い出したのか」


  ベッドの上から、恭也の声だけが聞こえてくる。


 「だってぇ。あの子がいると、二人っきりになれないんだもん……」


  ちょっと拗ねたような口調で、忍はボスンとその隣に飛びこむと仰向けに寝転んだ。


 「まぁ、分からないでもないが」


  恭也もゴロンと寝返りを打つと、手を頭の後ろに組み天井を見上げる。二人並んでゴヤの裸のマ
 ハのように、マタハリのように寝転んで仰向けになった。


 「そう、二人でいると、絶対その間にもぐりこんでくるし」


 「特にこんな風に、二人ならんで寝てるとな」


  そうそう、と振り子のように首を縦に振る忍に、恭也は軽く苦笑してみせる。


  猫という奴は、さもそこが自分の正当な居場所であるかのように、我が物顔で恋人達の間に出来
 た小さなクレバスにもぐり込んでくるもので。


 「二人っきりになりたい時には……ちょっと、ね」


  存在感ありすぎるんだもの、と忍は口を尖らせる。が、追い出した事に罪悪感を感じているのか、
 その口調は少し言い訳気味に聞こえた。


 「なぜか猫っていうのは、そういう時に限って人にすり寄ってくるからな」


 「こっちが遊びたいなーと思って呼ぶ時は、寄って来ないどころか逃げて行っちゃうくせに」


 「孤高を保ってると言うか、なんと言うか」


 「あーでもでも、そのくせこっちが相手しないと、逆に擦り寄ってくるのよねぇ」


 「普段媚を売る猫がツンとすましてる時もあれば、普段愛想のない猫が、急に懐いてくる場合もあ
 るしな」


  要は猫の気分次第と言う事か、と恭也はフンと鼻を鳴らして結論付ける。


 「この間も、私がトイレや風呂に入ってると何時の間にかやって来てて、
  扉の前で出てくるのを待っているの。なんでーっ?!」


  あれ気になるよ〜と両手を振り悶える忍に、恭也は思わずプッと噴出してしまい、慌ててその口
 を手でおさえたのだった。






                     〜◆〜






 「猫って、ときたま本っ当に理不尽な行動する時があるよね」


 「ああ、人が新聞や雑誌なんか読んでると上に乗っかってくるしな」


 「新聞紙に? 人に?」


 「どっちにも」


 「あはははは♪」


  珍しく悪戯っぽい恭也の口調に、あははと忍は声を上げて笑い。


 「まぁあれだ、おそらく自分以外に注意が向いているのがイヤなんだろう」


  だからこっちの思惑と正反対の行動を取るように見えるんだろうな、ともう何度目かの苦笑を漏
 らす。


 「ふ〜ん……じゃあ猫って、自分が相手に興味のない時は、無視してどっか行っちゃって……」


  人差し指をアゴにあて、忍はんーと闇をにらむように考えこむと。


 「相手が自分に興味がないと、無理矢理にでも自分の方に向かせる、と」


  それに合わせるように、恭也もまた人差し指を立てながら忍の問いに答える。


 「……すっごいわがまま」


  いまさらのように呆れかえったような声で、忍はそう小さく呟いた。


 「ははは、まぁ猫はな」


 「まるでたちの悪い悪女みたい」


 「……悪女ってのは、もともとたちが悪いもんだと思うが」


  まぁ言わんとする事は分かるが、と恭也はそれ以上つっこまなかったが。


 「だから猫ってのは、一番好き嫌い好みが分かれるペットなんだろう」


 「そっかぁ……ねぇ、恭也は猫好き? 嫌い?」


  忍はそう言うと急に少し体を起こし、ん? と恭也の顔を覗き込む。


 「……別に嫌いではない、と思う。別段好きでもないと思うが」


  暫し考え込んでいた恭也だったが、首を傾げながらやや曖昧に答える。高町家が動物ご法度だっ
 たこともあり、今まで自身あまり考えた事の無い質問だった。


 「そういうものだと思っているから、猫のわがままもそれほど気にしないし」


 「ふ〜ん」


  ニュアンスは伝わったようで、そうなんだ、と忍は恭也の答えに一応納得した表情を見せる。


 「……それに俺は、猫の様に気まぐれな娘とも付き合ってるしな」


  恭也がちらりと視線を向けると、見つめられた本人は初め頭にハテマークを浮べていたが、口元
 がゆるんでいる顔を見て、徐々にその意味を理解し始める。


 「あー! それって私の事ぉ?」


  その叫びに恭也は答えなかったが、俯き笑いをこらえている姿を見れば一目瞭然であった。


 「ひっどーい、私そんなにわがままじゃないもんっ」


  プイっとそっぽを向く忍。だってな、と恭也は半笑いの口を開いた。


 「こっちが興味のない時は、強引に自分の方を向かせようとするのに?」


 「う、そ、それは……」


 「それに自分が忙しい時は、俺の事も放りっぱなしだし」


 「ううっ!」


  痛い所を突かれ忍はううっと後ずさりする。確かに何か研究に取り組んでいる時の自分は、それ
 にかかりっきりになってしまう場合が多く。


 「十分似た所があるんじゃないか? し・の・ぶ」


 「……ぷー」


  膨れっ面の忍とは対照的な、やや得意げな表情で恭也は意地悪くそう言う。


 「う〜うう〜……えいっ!」


 「のわっ?!」


  追い詰められ暫しうーと唸るだけの忍だったが、突如身を起こすと逆襲とばかりに恭也の上に飛
 び乗り覆い被さった。


 「し、忍?」


 「……悪女じゃないもん」


  恭也の体の上で、怒ったような拗ねたような口調でそう主張する忍。


 「本当か?」


  意地でそれでもまだ意地悪い口調で返す恭也。


 「違うもんっ!」


  駄々っ児のようにもう一度そう叫ぶと、忍はずずいっと顔を近づけ。


 「私は……猫と違って、いつだってどこだって、いつでも恭也にそばにいてほしいんだもん」


 「それは……んぶっ?!」


  それはわがままじゃないのか? と言おうとした恭也の口を、強引に自分の口でふさぐ。


 「……それに私も、いつだって恭也だけを見つめてるんだから」


 「…………」


 「だから、猫じゃないもん。浮気者じゃ、悪女じゃないもん」


 「……そうだな」


  やや目を潤ませている忍の頬をひと撫ですると、恭也はその頭にスッと手をまわす。


 「ン……」


 「俺も……忍だけだ」


 「うん。きょうやぁ……ぅんん」


  そのまま引き寄せると、もう一度、今度はゆっくりと二人は唇を重ねたのだった。






                     〜◆〜






  窓の外には、菩薩の涼しげなアルカイックスマイルのごとく細く美しい月がさがっている。


 「ねぇねぇ、恭也ぁ」


 「ん?」


  先ほどのキスで機嫌が直ったのか、さっきまで泣いていたカラスがもう笑っていた。


 「私は恭也の事、だーいすき♪」


 「…………」


 「恭也は私の事、好き?」


  仰向けに寝ている恭也の赤くなった顔を上から覗きこみながら、忍はニコニコと楽しそうに微笑
 みながらそうたずねた。


 「ねぇねぇ、好き?」


 「……ああ」


  暫く口をつぐんでいた恭也だったが、少しだけ視線を逸らすと、ややぶっきらぼうにそれだけ答
 える。


 「えへへ……じゃあどれぐらい?」


 「どれぐらいって……」


  言葉にされたのが嬉しかったのか、目を輝かせながらなおも忍は食い下がる。


 「教えて、ねっ? ねっ?」


 「む」


  そんな事自分でも分からん、と思う恭也だったが、そんな忍を見ると断る事も出来ず与えられた
 難問にうーむと考え込んでしまうのだった。


 「……しのぶ」


 「なに?」


  暫くして、何か決意した恭也は、仰向けで天井を見上げたまま小さく恋人の名を呼ぶ。


 「胸、触ってみろ」


 「ん」


 「…………」


 「ん?」


  胸を触れと言われ、迷わず恭也の硬いおっぱいをクニクニともみしだく忍。


 「違う」


 「え? 違うの?」


 「こっちだ」


  恭也はなおも胸を揉み続ける忍の手を取り、自分の胸の谷間、心臓の位置にあてる。


 「あ……」


 「感じるか?」


  恭也の問いに、忍は素直にコクリと頷いた。


 「うん。強く、ドキドキっていってる……」


  あてた手の平に、やや早い恭也の胸の鼓動が伝わってくる。


 「忍、俺は口下手で、正直上手く言えないが……」


  そんな忍の方を見詰めて、そう前置くと恭也はゆっくりと口を開いた。


 「忍に触れるたび、今でも俺の胸が、激しく鼓動する」


 「うん」


 「何度も触れてるのに、ドキドキする。でも同時に、なんだか落ち着いて」


 「うん」


 「温かくて、切なくて。もっともっと、ずっと、触れていたいと思う」


 「うん……」


 「抱きしめたくなる。言葉に、できない気持ちになる」


 「う、ん……」


 「それぐらい、お前の事が、好きだ」


 「…………」


  一つ一つ確かめるよう言葉を区切りながら、精一杯己の感情を言葉にする。


 「……うまく伝わった、だろうか?」


  話す内、うつむいて無言になってしまった忍を様子を心配してか、恭也はやや心配そうに小さく
 そうたずねた。


 「……うん。うんうんっ!」


  だが次の瞬間持ちあがった忍の目は、泣き出さんまでに潤み、頬は真っ赤に高揚していた。そう
 して両手を握り締め何度も何度も首を縦に振りうなずき。


 「えへへへヘ……きょおやぁ〜!」


 「うわっと。おいおい」


  ガバッと勢いよく恭也の上に倒れこみ、抱きつく。


 「あたしもー、おんなじっ!」


 「忍……」


 「恭也ぁ、すきすき〜♪」


  そのままギュッと恭也の首に抱きつき、頬擦りしたり、口付けたり。まるで二人が別々の人間で
 いる事がもどかしいとばかりに、忍は何度も何度も、自分の体を恭也の体に触れあわせた。






                     〜◆〜






 「ねぇ、恭也ぁ」


 「なんだ?」


 「私の胸も、触ってみて?」


 「……ん」


  やがて再び恭也に馬乗りになってそう言う忍に、スッと右手を伸ばすと、恭也は忍の胸の谷間、
 心臓の上の位置に手を置いた。


 「ちがーう。こっち」


  その恭也の右手を取ると、自分の左乳の上に乗せる。


 「えへへ……どう? 感じる?」


 「…………」


  恭也の右手に、おっぱいのやわらかな感触と共に、忍の鼓動が伝わってくる。だがやった本人も
 やられた方も、顔が赤い。


 「あっ……」


  そのまま恭也が丸みに沿ってスルッと軽く撫でてやると、ビクッと忍の体が震える。


 「やっ、あはっ、恭也ぁっ、」


  そうして手で乳房を包み込むように軽く揉むと、パジャマ越しに先端をつまんだ。


 「ぁあっ!」


  忍の反応を確かめながら、少しだけ力を入れる。


 「あくっ、きょうやぁ……んぅ! ギュッてしちゃ、はッ、ダメぇ……」


 「……触れと言ったのは忍だぞ」


 「そう、だけ、どっ……やっ、はぁっ!」


  胸を、突起部分を掴まれ、切なそうに身をよじる。


 「あぁ……きょうやぁ、きょうやはァ……」


  忍はもうこらえきれない、といった感じで恭也の上に倒れこみ、抱きついた。


 「んっ、ん、んんっ、」


  そのまま体を摺り寄せたり、恭也の顔中にあたり構わずチュッチュと口付けたりして。


 「…………」


 「キャッ?!」


  しばらくされるがままになっていた恭也だったが、急に身を起こすと、忍の体を振り落として逆
 に上へと覆い被さった。


 「きょう……んふっ、ぅふう!」


  強く忍の口を塞ぐと、すぐにクチュクチュと舌を絡ませ合う。


 「……ぷはッ」


  暫くしてようやく離された二人の口を、銀色の数本の糸が繋いでいた。やがてプツプツと切れ、
 冷えたそれは二人の唇に冷たさを残す。


 「きょうや、すき、んはっ、好きぃ……」


 「ああ、俺もだ」


 「あっ、はっ、ハァぁぁ……!」


  忍のシャツの前ボタンに手がかかり、ゆっくりと開られていく。暗闇に慣れた恭也の目に白い肌
 と豊かな乳房が飛びこんできた。


 「……綺麗だぞ。忍」


 「ん、うれし……んんっ!」


  恭也の唇がツーっと首筋を伝うと、そのまま肩、胸、乳首、腰へと移動していく。唇が触れるそ
 のたびに、忍の体がビクッ、ビクンッとのけぞった。


 「ん、ハァ……忍」


 「あ…恭也ぁ、んふっ、んふぅ……」


  再び、深く唇を合わせる。重ね合わせた二人の手の平が、強く、しっかりと握り合わされた。






                     〜◆〜






 「……しーのーぶ」


  朝方、朝日が昇るには早いまだ外が湿った黒い闇に包まれている頃。一人目を覚ました恭也は、
 隣で裸のまま眠る恋人の姿を眺めていた。


 「しのーぶ」


 「んん……」


  小さく名前を呼びながら優しく頭を撫でると、少しだけ、身じろぎする。そんな忍に恭也は目を
 細めながら、静かにベッドを下りた。


 「さて、と……ん?」


  下着を身に付け、上半身裸のまま音をたてないようにゆっくりとドアを開く。とそこにはまるで
 ドアを開けられるのを待っていたかのように、ねこが一人座りこんでいた。


 「……よく来た。ここは1番目のお前の場所だ。しかし、今は私の場所だ。うばいかえせばよい。
  ……できるものなら」


 「にぃ〜」


  恭也の言葉を無視して、脇をすり抜け部屋の中へと入っていくねこ。


 「……ふぅ」


  我ながらバカな事をしたと思いながら、恭也はねこと入れ違いに部屋の外へ出ると、朝の鍛錬に
 出かけていったのだった。


 「んー……きょうや?」


  気配を感じたのか、ふと目をさました忍は自分が一人でいるという事に気付く。


 「恭也ぁ……?」


  眠い目をこすりながら、もう一度愛しい人に呼びかける。しかしそれに応える者はおらず、忍の
 言葉は空しく暗闇に吸い込まれていった。


 「……ねこー、お前のもう一人のご主人様はどこ行ったー?」


  恭也のかわりに隣にいたねこに話しかけるが、ねこはニャーと一声鳴くと、少しだけもたげた頭
 を下ろし、再び眠りにつく。


 「ふぅ」


  だんだんと頭がハッキリしてくると、恭也が鍛錬に出た事を理解し始めた。


 「行っちゃったのかぁ……ん?」


  つまらなそうにため息をつくと、ゴロリと寝返りを打つ。その時、自分の体の下にある何かに手
 が触れる。


 「あ、これ、恭也の……」


  引っ張り出す。と、それが恭也の着ていたTシャツだという事に気がつく。自分のシャツの方は
 ベッドの下に落ちてしまったようだった。


 「えへへへヘ……いいよね?」


  それは忍が何時の間にか体の下に敷いてしまい、仕方無しに置いていかれた恭也のシャツだった。


 「うわー、やっぱり、おっきい」


  誰にでもなくそう問うと、ゆっくりとTシャツに腕を通す。やはり大きめのそれは忍の体をすっ
 ぽりと包みこんでしまう。


 「んふふふふ♪」


  そのまま恭也のシャツに包まりながら、再びポスンとベッドに横たわった。ねこが小さな抗議の
 声を上げる中、忍は襟に顔を突っ込みながら、クンカクンカと匂いをかぎバタバタと転げまわる。


 「恭也の、匂いがする……」


  スーッと一つ大きく息を吸いこむ。忍の胸深く、嗅ぎ慣れたはずの恋人の匂いが広がっていった。






  自分の匂い あの人の匂い それから……ねこの匂いも


  いつのまにか この私の部屋のいろんな所が あの人の匂いで満たされて


  以前はたった一人で この暗闇の中


  自分がどんな空気で どんな風に息をしていたのか


  それすらもう 今は思い出せません


  この匂いを嗅ぐと なんだかとっても心地よくって 切なくて


  これからもずっと ずっと


  この空気に包まれていたい……






                     〜◆〜






 「……ん、んんー?」


 「あ、すまない忍。起こしてしまったか?」


  忍はいつのまにかそのまま寝込んでしまったのだろう。まるで夜の帳が雲母が一枚一枚はがれて
 いくようにゆっくりと白んでいく、やわらかな朝の光が窓からうっすらと漏れ出す頃。


 「んー……きょう、や?」


 「ああそうだ」


  傍らには、鍛錬を終え様子を見に戻って来た恭也が立っていた。ぐるりと辺りを見回す。かわり
 にまたねこの姿はなくなっていた。


 「んフフ、きょーや♪」


 「お?」


  恭也の姿を確認すると、ぼふっと体を預け、背中に手を回してしっかりと抱きつく。


 「まだ寝ぼけてるのか?」


 「うん? んーんー……」


  曖昧な返事をかえしながら、なおも恭也の胸にグリグリと顔を埋めていく。


 「えへへへヘ、本物だぁ」


 「なんの事だ?」


 「ひーみーつっ」


  ?を浮べながら、ポリポリと頭を掻き抱きつかれたまま棒立ちになっている。そんな恭也に頭を
 すりつけながら、忍はピスピスと鼻を鳴らす。シャツと、自分と、同じ匂いがした。


 「それにしても……何時の間に、それ着てたんだ?」


  スッと忍の頭を掴むと、恭也は少しだけ体を引き離し。


 「ん? あ、いいでしょー♪」


 「いいでしょうって……」


  忍はだぼついたシャツを掴んで、んっと広げて見せる。


 「気付いたら忍が体の下に巻き込んでいたんで、仕方無しに置いていったのだが」


 「えへへ、今日はこれ着てガッコ行っちゃおっかなぁ〜」


 「……やめい」


 「そのかわりに恭也は、あたしのシャツ着てくとか」


 「できるかっ!」


 「あはは、うそうそ」


  再び、抱きつく。


 「んー、ん〜……そんな事しなくても、ね」


 「ん? なんの事だ?」


 「なんでもなーい」


  再び疑問符を浮べる恭也を他所に、忍は楽しげにゴロゴロと喉を鳴らしながら体をすり寄せた。


 「……もう二人、一緒の匂いだもん」






 「そろそろ出るぞ、忍」


 「あー待って、恭也ぁー」


  今日も、あなたと同じ匂いになって登校する。






                     〜◆〜






 「高町君、ちょっといいかな?」


 「? なんでしょうか、鷹城先生」


 「さっきね、月村さんにも言ったんだけど……」


 「はぁ」


 「あのね、ほら、月村さんの移り香」


 「!」


 「学生なんだから、ほどほどに、ね?」


 「は、はい」


 「……ふふふふふ」


 「あ、あの、なにか……」


 「いや〜、いつも仏頂面の高町君も、そんな表情するんだねぇ」


 「は、はひ?」


 「顔、真っ赤だよ」


 「そ、それは、その」


 「にゃはは。ま、若いんだからわかんないでもないけどね。んじゃ、そゆこと〜」


  笑顔で手を振りながら去っていく鷹城先生。恭也は二度三度自分の腕などを嗅ぐと、顔を真っ赤
 にしながらトイレへと駆け込んでいった。






  洗っても落ちません。






                                      了









  後書き:これも大概古い作品ですね。
      『ヴォル・ド・ヌイ』でしたっけ。香水の元の名前。
      それを夜間飛行と訳してしまう、日本語は上手いんだか上手くないんだか。
      私も昔「胸触って」と言ったら、迷わず乳もまれました……
      胸の鼓動を感じて欲しかったんだっつーの。





  02/08/31――初投稿。
  04/10/20――加筆修正。

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takemakuran@hotmail.com
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