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  〜月も雲間に〜
  (Main:忍 Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






 「忍、何をしているんだ?」


 「ん〜きょうやー? もーちょっと待っててねー」


  夜。恭也を寝室に押し込めておきながら自分は再び部屋の外へと戻ってしまった忍の遠い声が、
 扉の向こう側から聞こえてくる。


  既にベッドに身を横たえていた恭也は恋人の謎の行動にやや呆れつつも、まぁ忍の奇行いつもの
 事かと小さく諦めのため息をついた。


 「また何を企んでいるんだか……」


 「おっ待たせー」


 「んん?」


 「じゃ〜ん! 見て見て恭也ぁ♪」


 「……お前は本当にそういう事が好きだな」


  忍が着ているのは普通の男物の黒のシャツ、しかし恭也には見覚えがあった。それは先ほどまで
 自分が身に付けていた物だったからだ。


  成る程先ほど入浴時に自分が脱衣場で脱いだ物かと恭也は納得する。


  扉から覗き込むようにして現れたのは、薄暗い闇の中にスラリとした白い生足がまぶしい、恭也
 の服を着込んだ忍の姿だった。


 「えへへ、いいじゃない、こうしてると恭也にすっぽり包まれてる感じがするんだもん」


  着込んだ大きめシャツを掴み、キュッと抱き込むように自分の身体に腕を回す忍。そんな不意の
 仕草に恭也は不覚にも可愛いと思ってしまう。


 「っ、そんなもの――」


 「直接俺が抱きしめてやる?」


 「…………」


 「やー赤くなった赤くなった!」


  やかましい、とベッドに上がり四つん這いに笑顔でにじり寄ってきた忍の頭を手で押し返すが、
 赤い顔を見られぬよう逸らしながらでは様にならない。


 「それで、どうどう恭也? 似合う?」


 「ああ、似合わない」


 「ぶ〜、なんでよぅ」


  肯定しておいて、それでいてキッパリ似合わないと言い切った事に忍はぷぅとむくれるが、恭也
 は澄ましたまま。


 「……俺の無骨な服なんぞお前には似合わん」


 「え?」


  乱暴なアルトでそう言うと、そっと忍の白く透き通る頬に手をやった。


 「俺は……好きな女の子には、可愛い服を着ていて欲しいと思う」


 「きょう、や……」


  先ほどは先んじられ、赤面させられてしまった事に対する恭也の精一杯の反撃のつもりだった。
 しかし。


 「恭也……少女趣味?」


 「この口か。この口が悪いのか」


 「ひぃや〜堪忍〜」


  身も蓋もない忍のツッコミにさしもの恭也も堪忍袋の尾が切れた。忍の柔らかな両頬をうに〜と
 何度も引っ張りこねくり回す。


 「ふにゅにゅ、む〜……えい!」


 「ぬをっ?!」


  暫くやられっぱなしになっていた忍であったが、隙を突きもろ手で恭也を仰向けに押し倒すと、
 すぐさまその腹の上に馬乗りになった。


  にやり。


  暗闇に白い三日月が浮かび上がる。


 「月も雲間に隠れたし、雨戸も閉めたしガキも寝た……」


 「……お前さん、今夜もかい?」


 「あたぼーよ♪」


  嬉しそうに力強く頷いた忍はすりすり恭也の厚い胸板を弄りながら、体を倒し顔を近づけていく。


 「んっ」


  唇が、重なった。


 「ン、んふっ、ううん……」


  初めはついつい唇をついばみながら、やがて深く。カチリと歯が合わさるとその間を割って舌先
 がぬろぬろと絡み合う。


  と、一旦忍が顔を上げ、身体が離れた。


 「……きょうやぁ」


 「しのぶ……」


  互いの想いを確認すると再び忍の身体が折れ、覆い被さっていく。もう二人の肉体が離れる事は
 なかった。






  二人の夜は、まだ始まったばかり。






                                       了









  後書き:「月も雲間に隠れたし雨戸も閉めたしガキも寝た」
      「お前さん今夜もかい?」
      「あたぼーよ」

      ゴメンナサイ。この掛け合いが書きたかっただけっす。





  05/05/22――UP.

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