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  〜横綱禁止〜
  (Main:真雪 Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






  ある日の昼下がり、耕介は寮のベランダで一人遠い空を眺めていた。


 「……ハァ」


  青い空。まばらな雲。爽やかな秋空とは対照的に耕介の表情は暗く、溜め息混じりに時折頬杖の
 左右を入れ替えている。


  と、突然耕介の背中にドスンと衝撃が走った。


 「っ?!」


 「ん〜どしたぁ? 一人で黄昏ちゃって」


 「ま、真雪?」


  振り向く間も無く首に腕が回されがっしりと抱きつかれる。突如襲来した子泣きジジイの正体は
 真雪であった。


 「べ、別に黄昏てるって訳じゃないけど」


 「じゃあ何でこんなトコで一人で居るんだ? 頬杖ついて」


 「そ、それは……うわあ」


  抱きつかれた耕介は何故か背後の真雪から顔を逸らし、逃げ出そうと抵抗する。


  むにむにと背中に当たるおっぱいの感触も気にはなったが、今の耕介にはそれ以上に切実な問題
 があったのだ。


 「それともあたしには話せない事なのかぁ? ん〜?」


 「てかそれタバコ! 熱っ!」


  真雪は煙草を口に咥えたまま耕介に抱きついていたのだった。


  耳元を襲う熱から必死で逃れようとする耕介。ちりちりと、煙草が燃えていく音すら聞こえそう
 なほど火が近い。


 「言わないと放してあげなーい」


 「は、話す話すってば! だからとりあえず離れてっ!」


 「あ」


 「ぎゃっ?!」


  二人が暴れていたせいか、それとも真雪がピコピコと歯で咥えたタバコを上下させていたからか。


  ポト、っと灰が耕介の首元に零れ落ち、その瞬間耕介は真雪の体を突き飛ばしていた。


 「うわっ!」


 「っ〜……あだ、あづづ……」


  ばたばたと灰を手で払い、それでは足りないとばかりに何度も何度も首筋を手で摩る。突き飛ば
 した真雪の心配をする余裕も耕介には無かった。


 「嫁を突き飛ばすとは酷い奴だなおい」


 「じょ、条件反射、じゃ無くてなんだっけ、だからしょうがないって……」


 「反射神経? なんか違う気が」


 「とりあえず火は無理。我慢とかそういうレベルじゃない」


  首を押えながらその場にしゃがみ込んでしまった夫を見て、流石の真雪もきゅっと煙草の火を手
 すりに押し消した。


 「で? 何してたんだこんな所で」


 「何って……今晩のおかずを考えてただけなんだけどね」


 「あ? ホントに?」


 「うん」


  それを聞いて真雪の口から初めて悪かったよ、という言葉が出た。耕介の方も心配してくれたの
 だろうという思いから、余り強くも言えない。


  お互いただ顔を見合わせ、にやにや苦笑いするばかりだった。


 「ねえ真雪、タバコ止めない?」


 「どして?」


 「今みたいなのも困るし、それに体にだって悪いし……」


 「あ〜無理無理。今更止めるなんてあたしには無理だ」


 「そんな胸張って言わんでも」


  子供にも、とは耕介には言えなかった。その話をすると決まって妻はただ唸って逃げ出すばかり
 だからだ。


 「できれば俺は真雪には長生きして欲しいんだけど」


 「ん〜? うん」


  代わりにこう言うと、真雪はやはり困ったように小さく唸って明後日を向いてしまう。そのまま
 暫く何事か考えた後、真雪はやがてゆっくりと口を開いた。


 「……酒と違ってさあ、タバコは間がもたないってのもあるんだよね」


 「間がもたない?」


 「そ。ドラマや漫画でよくSEXの後にタバコ吸ってるだろ? あれって絵的に間がもたないから
 なんだよね」


  あたしもつい描いちゃうんだよね、と真雪は笑う。


 「間がもたない、ねぇ」


 「現実問題だと口淋しいって言うか、手持ち無沙汰なんだよなぁ」


  そう言いながらほら今もと言わんばかりに、真雪は空になった右手をフリフリと振り回す。それ
 を黙ってみていた耕介だったが、不意ににやっと人の悪い笑みを浮かべたかと思うと。


 「じゃあ……こんなのはどう?」


 「ん? んむっ」


 「んー、ん……」


 「んんっ! むむ、む……」


  おもむろに真雪に近づき、いきなり唇を奪った。逃げられぬよう後頭部に手を回し、深く、舌で
 ぬろぬろと口内を余す所無く犯していく。


  初めは抵抗していた真雪だったが、やがてだらんと両手が落ち、されるがままになっていた。


 「……ぷはっ」


 「は、ぅ……いきなり何をする」


 「ん〜やっぱりタバコ吸ってる人の口はちょっと苦い」


  たっぷり30秒は経っただろうか、耕介は味を確かめるよう舌なめずりしながら苦笑する。


  そうして自分の意思とは無関係に赤く上気してしまっている真雪の顔を、ずいっと覗き込むとこ
 う言った。


 「口淋しいんでしょ? だから吸いたくなったそのつど、俺がキスしたげるよ」


 「はあ?」


 「そうしていつかタバコの味が消えるまで、舐め取っちゃる」


 「……それはつまり、タバコの代わりにあんたを吸えって事か?」


 「ウン♪」


  耕介の言い分に開いた口がふさがらず、真雪の顔からスーッと血の気が引いていく。


  その代わり目の前にある満面の笑顔を見ていると、何故だか無性にむかむかと怒りが込み上げて
 きて。


 「有史以前の少女漫画じゃあるまいし……そんなオチが通用するかーっ!」


 「グ、ぐごげーっ!」


  真雪のレッグラリアートが見事炸裂。哀れ耕介の体は二階から落下した。






  でもちょっと減りました。煙草の量。






                                       了









  後書き:私はタバコ吸わないんで、紫煙は迷惑以外何ものでもないですねぇ。
      禁煙場所が多くなってきましたが、
      未だに会議室とかでは煙だらけって事が多いですしね……





  05/10/01――UP.

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