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  〜お茶〜
  (Main:ゆうひ Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






 「こーすけくんっ、ふぁい。ふぁいちゅ〜」


  ハイチューと懐かしい掛け声を口にしながら、耕介の文字通り目と鼻の先に苺をくわえたゆうひ
 の笑顔がゆっくりと近づいてくる。


 「はいはい、じゃ、いただきまーす」


 「んん……♪」


  耕介はキスにはやや大きすぎるほど口を開いて、それを迎え入れ。先ず二人の唇が合わさった。


  重ねたまま唇を閉じ、同時にその奥で耕介のあごが閉じられる。苺を噛み千切った音がざくっ、
 とやけに大きく聞こえた途端、広がる甘酸っぱい苺の果汁。


  それが零れ落ちぬよう更に深く唇を押し付け合い、吸いつき合い本当に甘い口付けを終えると、
 名残惜しそうに二人の顔が離れ。互いに半分コされた瑞々しい果肉を咀嚼していた。


 「……えへ。さ、お返しお返しー」


 「ああ、分かってるよ……ってありゃ。もうイチゴ無いよ」


 「えー!」


  苺のぷつぷつとした種を探り当て、前歯の間でプチっとすり潰しながら耕介がパイレックスに手
 を伸ばすと、もうその底には水滴しか残っておらず。


  これまで持ってきた十数個の苺が無くなるまで、二人はずっとこうして口移しで食べさせ合って
 いたのだった。


 「ま、しょうがないさ。今回はこれでお開きって事で」


 「むー」


  もう十分に甘い苺と恋人の唇と時間を堪能した耕介はそう言って肩をすくめるが、一方ゆうひは
 いまだ不満げに唇を尖らせ。


 「……あ! せや、まだあるやん耕介く〜ん」


 「? 何が」


 「こーれ」


  ゆうひはじっと空になった器を睨んでいたが、その隣にあるものに目を止めると一転パッとその
 表情を輝かせた。


 「……お茶でやるつもりか?」


 「そ」


  今まで散々二人して馬鹿な事をやっていたとはいえ、すでにカップに紅茶を注ぎ熱くないか確か
 めているゆうひを見て耕介は流石に苦笑する。


 「もう口移しできりゃなんでも良いって感じだな」


 「そんなことあらへんよー」


 「そうか?」


  不審の目を向ける耕介に当然、とばかりに豊かな胸を張ったゆうひは。


 「相手が耕介くんでないと……たとえモノが満漢全席でも、やる気ナッシングやわ」


 「どうやってくわえる気だよっ?! ……まぁ、ありがとな」


 「えへ♪」


  乱暴な物言いとは裏腹に明らかに赤くなっている耕介の顔と、照れ隠しにクシャクシャ頭を撫で
 られてゆうひはご満悦だった。


 「それじゃ。ん、むー……」


  自分の頭を撫でていた大きな掌から放されると、少し名残惜しくもあったがすぐにゆうひは早速
 とばかりに紅茶を口に含んでいく。


 「……ぼくは、ヘポリスの勇者」


 「ぶばっ!」


  と、カップを傾け切った辺りで突然やたら甲高い声で耳元でそう囁かれ。ゆうひは思わず口の中
 の琥珀色の液体を噴き出した。


 「えっほ! ぶへっ! けほっ、けはっ……」


 「オイオイ大丈夫かよ」


 「えぅ……ひ、人がお茶含んでる時にんなこと言うやつおるかーっ!」


  咳き込む相方の背中を撫でながら、自らが招いた事態とはいえ予想以上のリアクションに、耕介
 の顔もやや引きつり気味。


 「いやー喜んでくれるかと思って」


 「今度やったらしょうちせぇへんで」


  ぶちぶちと文句を言いながらもゆうひは再び紅茶を今度は少々乱暴に、口内に流し込む事を止め
 ようとはしなかった。


 「……ぅん、んー」


 「気をつけろよ」


 「ン。んん……」


  ぷっくりとリスのように、両頬を膨らませたゆうひが立ち上がって近づいてくる。先ほどまでと
 違い物が液体なので、耕介は腰掛けたままほぼ真上を向いて。


 「っく、ンく、んふっ、ん」


 「んむ、ぁ……」


  ゆうひが唇を硬くすぼめたままで、上から開かれた耕介の口の中に押し付けた。慎重に口を開く
 と舌で制御しながら、ちろちろと少しずつ紅茶が流れ出す。


  後頭部を抱かれつつ多少温くなっていたそれを耕介は受け止め、ゴクッ、ゴクッと嚥下すると、
 もう二人にはその音しか聞こえない。


  不思議と耕介もゆうひも、何も思わなかった。ただ緩やかに、口から口への紅茶の受け渡しが続
 けられていく。


 「んっ」


 「……ふぅ」


  ちゅ、ちゅと最後に耕介がその唇を舐め取ると、ゆうひはわずかに身動ぎして。体を離しへたり
 込むように両膝をつくと、二人の生暖かい口付けは終わった。


 「あ、あの、こうすけくん。その……ごめん」


 「……謝るぐらいなら、最初からすんなっつーの」


 「うん、ゴメン……」


  照れて赤くなったりしているわけではない。動悸がする事もない。ただお互いの顔を見られず、
 俯いたまま。


 「ゆうひ……」


 「こうすけ、くん……」


  さりとてまたそれ以上近づいたり、相手に手を伸ばしたりも何故か出来ずに。


  不思議な空気が立ち込めた部屋の中で、耕介とゆうひの二人はかしこまったまま暫しその場から
 動く事が出来なかった。






                                       了









  後書き:私がやった事あるので、一番おかしなのはこれとスルメかな(笑
      やった後何とも言えない変な空気になっちゃって。お互い意味も無く謝ってました。





  05/01/15――UP.

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