SSS index







  〜ぱんつ〜
  (Main:ゆうひ Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






 「な? 言うたとおり蕎麦の話、おもろかったやろ? うちもそれたまたま雑誌で読んで、単行本
 買うて来たねん」


 「ああ、そうだな」


 「まあ無茶な展開も多めやけど、その分簡単に読めるしな」


 「一話完結型ってのはやっぱいいよな。長く伸ばされると推理の内容は充実するんだろうが、前の
 方の話、忘れちゃうんだよなー俺」


 「あはは♪ 分かるわそれ」


  耕介はゆうひの部屋で漫画を読んでいた。漫画はゆうひの私物であり半ば強制的であったため、
 読まされていたと言った方が正しいか。


  耕介が一話読み終わった辺りを見計らって、ゆうひがその漫画についての話題を楽しそうに話し
 掛けてくる。


  それは耕介にとってもそれなりに楽しい一時であったが、問題が無いわけではなかった。


  一緒に居て漫画を読む、読ませるというのは実はなかなかに難しいのだ。


  話し掛けられると漫画は読めないし、ある程度読み込まないと内容についての返事も出来ない。
 読み終わるのを待つ事になるのだが、当然その間は無言になる。


  そうなると二人で居る意味があまりなくなってしまう。


  ただ二人一緒の空間に居るという事に幸せを感じるというのもあるが、残念ながらゆうひはそう
 いったタイプではなかった。


  その豊富なサービス精神ゆえか、客人に対し何もしないで居る、という事が出来ないのである。
 つい話し掛けたり、ボケを振ったり茶を振る舞ったりと要するに放って置くとむしろゆうひ本人が
 淋しかったりするのだが。


  だったら漫画は貸しておいて後から話題にすればいいではないかとも思うのだが、そこはそれ、
 今一緒に居たいのだという我侭なるも可愛い乙女心である。


  そんな訳で耕介は律儀にゆうひの相手をしていたが、代わりに読書の方は遅々として進まない。
 その内にゆうひにもそれが分かって、仕方無しに暫し黙って自分も漫画を手に取った。


  いくら面白い漫画でも、一度読んだものはあまり熱中出来るものではない。結果ゆうひは漫画を
 読みつつもやや退屈しながら、チラチラと横目で耕介の様子を窺う羽目になった。


 「ん?」


  と、また丁度一話読み終わった耕介がふと顔を上げる。ベッドの傍らでうつぶせになって漫画を
 読んでいた彼はゆうひの方を見上げると、チラッと『ある物』が目に入った。


  ゆうひはベッドの上に腰掛け、壁に背をもたれ漫画を読んでいた。ただ問題なのはその日彼女は
 スカート姿であり、尚且つ偶々膝を立てていたのだ。


 「……あ」


  耕介が更に視線を上げると、その気配に気付いたゆうひと目が合った。耕介の位置、そして自分
 の体勢から状況を悟ったゆうひは何をしたかと言うと。


 「…………」


  ただ無言でスススッ、と足を閉じ、ゆっくりと下ろしたのだった。


  愛い奴め。


  と耕介は思った。状況からパンツを見られた事は明白で、ゆうひ自身もそれは自覚しているはず
 なのだ。よく見ると顔も僅かに赤らんでいる気がする。


  しかしあえて、彼女は何事も無かったように振舞ったのだ。


  普段なら、


  やーみられてもーたんかいなーこうすけくんのえっちー。


  なとど冗談めかして言いそうなものだが、ゆうひは黙っている。意図的に見せるのと、己のミス
 から偶然見られてしまうのでは、また違った恥ずかしさがあるのだろう。


  それはまたパンツ自体が以前何度か見せてもらったような派手な勝負パンツではなく、地味な、
 いかにも普通っぽいベージュであったように見えた事も関係しているだろうと耕介は確信していた。


  耕介は改めてゆうひの姿を仰ぎ見た。彼女は今はぺたんと女の子座りで、まだ目を合わせ辛いの
 か顔付近まで持ち上げた漫画を一心不乱に覗き込んでいる。


  そんな恋人の複雑な乙女心を十二分に理解した上で、耕介はゆうひに向ってこう言った。


 「ぱんつ、見えてたぞ」


 「言わんでええ!」


  ガスッ!


 「おぶっ!」


  殴られた。グーで。






                                       了









  後書き:ドラマ『喰いタン』は食べ物を大切にしている感があって好きでした。
      面白くは無かったけど(笑





  06/04/03――UP.

Mail :よければ感想などお送り下さい。
takemakuran@hotmail.com
SSS index