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  〜笹カマ〜
  (Main:耕介 Genre:ほのぼの Written by:竹枕)






 「にぃ〜」


 「お? なんだお前、一人か」


  突っ掛けに足を通し、リビングの窓から庭の方へと出ようとした彼を出迎えたのは、耕介の掌が
 体に比例して大きいとはいえすっかりその中に収まってしまうほど、まだ声も体も小さな小さな、
 一匹の子猫だった。


 「まーだおかーさんについてまわってる、いや運んでもらってるぐらいの大きさじゃないか」


  足元にじゃれつくそれは下手をすれば踏み潰してしまいそうで。恐々子猫から離れると、耕介は
 その目の前にしゃがみ込んだ。


 「んな〜?」


 「にぃ〜」


 「ははっ、人見知りしないなぁお前」


  人懐っこく、自分の呼びかけにも律儀に応えてくれる黒い毛溜まりに耕介も思わず相好を崩す。


  さざなみ寮の裏山には沢山の猫が住んでいたが、人前にちょくちょく顔を出すとはいえその多く
 は純然たる野良である。人間に触られるのを良しとしないものも多い。


  こんな風に差し出した指に興味深く鼻を鳴らし、ついにはじゃれ始めてしまう猫は子供といって
 も耕介にとって珍しく、また嬉しかった。


 「よし、じゃちょっと待ってろよ」


  愛らしさにとうとう居ても立っても居られなくなった耕介は、再び寮の中へと引き返すと。


 「じゃ〜ん、笹カマだぁ」


 「ニィ〜♪」


  駆け戻ってきた耕介の手の中にある物を見て、子猫の鳴き声も心なしか喜びに半音上がったよう
 に思われた。


 「ほぇ、あうぇる」


  窓下のコンクリートに這いつくばるように両手をつくと、耕介は笹カマを口にくわえて、ほれ、
 と子猫の方へ差し出す。


 「ん?」


  しかし。子猫は笹カマに興味は示すものの、それを耕介の口から受け取ろうとはしない。


 「……いややいのふぁ?」


  耕介がいくら顔を振って揺らそうとも、笹カマに子猫は口をつけようとせず。それどころか最後
 はフイと顔を逸らしてしまう。


 「……はいよ」


 「にゃん!」


  結局笹カマを地面に落としてやると、うって変わって子猫はすぐさまニャンと飛びついた。


 「猫に拒絶された男、か……」


  子猫が必死で自分の身体ほどもある笹カマにかぶりつくその様子を、耕介は暫しの間やや呆然と
 眺めていたのだった。






  その日最初に寮に帰ってきた美緒は、庭でどーせどーせと呟きながらのの字を書いている大男を
 発見したという。






                                       了









  後書き:実話。てか私の場合は実家の犬でしたけれど。
      恐らく顔を近づけられたんで目を、顔をそらしたと思うんですが……
      やっぱりちょっぴり悲しかったっす。





  05/01/15――UP.

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