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エピローグ 雪の舞う細道をシェド達を乗せた馬車がゆっくり進んでいく。そして何故か、その傍らにはミレーヌを乗せた馬が随伴していた。 「……別にお前まで一緒に行く必要ないだろ?」 ため息混じりに言うシェドに対し、 「だって、お父さんに会うためにあたしんち行くんでしょ? いいじゃんいいじゃん、今度こそあたしの部屋に招待してあげるんだから」 ミレーヌはカラカラと寒空に負けない陽気で白い息を吐く。元気なミレーヌとは対照的に、寒がりのヒューイはアリアの胸元に潜ってブルブル震えていた。 「今回も遠慮しておく」 「ぶぅーっ、なんでよぅ……」 げんなりした様子でシェドがつぶやき、ミレーヌは頬を膨らませて唸っていた。 シェドの隣に座るアリアは、ピンク色のミトンを擦り合わせながら空へ何度も白い息を吐きかけていた。荷台ではセシリーが毛布にくるまって瞳を閉じ、その後ろでシールディアは荷台の後ろから過ぎていく景色をジッと見つめていた。 すでにスノーレンの街灯りも届かない雪道。シンシンと降り続く雪も大きな牡丹雪から小さな粉雪に変わりつつあった。 「……っ!?」 ふいに気配を感じ取ったシェドが手綱を引いた。馬が嘶いて歩みを止め、セシリーが荷台から「何事?」と顔を出す。 アリアが見上げるようにシェドの顔を見つめると、シェドは雪道の向こうを睨めつけてサングラスの橋を押し上げた。 「今度は何の用だ」 シェドが道の先へ向けて苛立ちが籠もったような声をもらす。アリアが視線を切り替えて目を細めると、道の先から一人の青年がゆっくりと一行の前に姿を現した。 長身痩躯の金髪紅眼。雪のように白い法衣を対照的な黒マントを纏い、腰には細身の剣を携えている。 「……シェドさん、あれから色々考えました。でも、まだ答えは出てきません」 金髪の青年、シルヴァランスが、アリアではなくシェドを見つめたまま口を開いた。迷いで歪んだ眉に、歯がゆそうに噛みしめる唇。一行の前に現れたシルヴァランスは、とても辛そうな表情を浮かべていた。 「数時間で人生悟れるなら、誰だって苦労しないさ」 「そうですね。……でも、答えは見えずとも自分の意志、自分の正直な気持ちだけは確認することができました」 「ほう、それでまた来たというわけか」 「はい」 アリアとセシリーはシルヴァランスを見つめ、シルヴァランスもそんな二人へ視線を向ける。シルヴァランスがスッと瞳を閉じ、一度強う拳を握りしめてから、もう一歩馬車へ歩み寄った。 シェドが馬車から飛び降り、シルヴァランスと向かい合って身構える。 「……ここで戦うのか?」 「いえ、僕が来た理由は戦うためではありません」 「なに?」 「僕も、あなた方と一緒に旅をさせていただけませんか?」 「なっ……!」 想定外の言葉を切りだしたシルヴァランスに三人は驚きの表情を浮かべた。事情の飲み込めないミレーヌと干渉しないシールディアは、無言のまま事の推移を見守っている。 「どういうつもりだ? あれだけ執拗にアリアにこだわってたくせに、俺たちと一緒に行きたいだと?」 「はい」 シェドの眼光に気後れすることなく、シルヴァランスは芯のある声ではっきり頷いた。セシリーも目を尖らせながらキッとシルヴァランスを睨んでいたが、シルヴァランスはその視線にも臆すことなく、小さく一度、腰を折ってセシリーに頭を下げた。先の戦いで傷を負わせたことを謝ったのだろう。 長い沈黙が下りる。シェドはシルヴァランスを睨んだまま微動だにせず、セシリーもけっして表情を緩めない。シルヴァランスはアリアをじっと見つめて悲しげに顔を曇らせており、アリアはそんなシルヴァランスを黙って見つめ返していた。 「……だとよ、アリア、判断はお前に任せる」 「え?」 誰もが誰かが切り出すのを待っていた時、口火を切ったのはシェドだった。 「こいつを一緒に連れて行くかどうか、お前が決めろ」 「…………」 いきなり決定権をゆだねられたアリアは、しばらくシェドの顔を見上げた後、次は黙って一度戦った相手を見つめた。困ったように眉を寄せながら、今度は振り返ってセシリーの意見を求める。 「私は構わないわよ。……ただし、一緒に旅することになったら、昨日の借りを容赦なく返すつもりだから覚悟しておいてね」 アリアの意志に任せると促した後、シルヴァランスを見つめて妖艶に微笑むセシリー。シルヴァランスがそんなセシリーの笑みに乾いた笑いを飛ばしていた。 「……私は……」 言葉が出ないアリア。一度戦った、言わば敵であるシルヴァランス。けれど、アリアにはシルヴァランスが悪い人間であるとは思えなかった。 戸惑いながら頭を垂らすアリアに、シルヴァランスがふと優しい笑みを浮かべながら、 「僕は……、君を守りたい」 と、口にした。その言葉にアリアはハッと顔を持ち上げる。 「君は優しい子だ。戦ってみて、それが本当によくわかった。だから僕は、ニーヴルの手から君を守りたい」 真摯な瞳でアリアを見つめるシルヴァランス。アリアはそっと胸元の聖石を服の上から撫で、意を決したようにキッとシルヴァランスを見つめた。 「わかった。一緒に、行く」 アリアの答えを聞いてシルヴァランスがうっすらと瞳に涙を浮かべた。シェドはやれやれとばかりに大きなため息をつき、「さっさと荷台に乗れ」とシルヴァランスを急かしてから自らも乗車席に座り直した。 シルヴァランスは荷台の後ろ口から飛び乗り、シールディアと一回視線を絡ませてから腰を下ろした。 「いい? もし私達を騙してアリアに手を出すようなことがあれば、私は絶対にあなたを殺すわ」 荷台に上がったシルヴァランスに、セシリーが先ほどまでの笑みを消して殺気に満ちた目で見つめた。シルヴァランスは首肯で応じ、セシリーと向き合うように腰を下ろした。 シールディアは無表情のままシルヴァランスを見つめ、ミレーヌは何が何だかわからないといった顔でシェドとアリアを見つめていた。 シェドは手綱を引いて馬を進める。カラカラと車輪が回り始め、左右上下に馬車が揺れる。 「しかし随分とまあ、大所帯になったもんだな」 気怠げにつぶやくシェド。その傍らでアリアは、 「これでよかった?」 と、シルヴァランスを受け入れたことの是非をシェドに尋ねた。不安そうに、困ったように、これでよかったのかと聞きたそうに。 「さあな。お前はいいと思ったんだろ? だったら、それでいいさ」 「……うん」 「あいつの目は真剣だった。……いつかお前の両親が見つかって、俺と一緒に旅を続ける必要がなくなったとしても、一緒にその地に留まってずっとお前を守ってくれるさ」 「…………」 アリアの頭をぽんぽん叩きながらシェドはそう言って前を向いた。アリアはシェドの言葉を受けて表情を曇らせると、ぽてんと体をシェドの方へ倒し、瞳を閉じた。 “俺と一緒に旅を続ける必要がなくなっても……” その言葉が、何度も何度もアリアの中で反響していた。 「ん、眠いのか?」 「……うん」 「朝早かったからな……」 シェドは自身のコート口を開いて、自分とアリアの二人を包んだ。一着のコートを二人で使うと互いの肩口や腕が触れあって体温が伝わってくる。 静かな荷台を一瞥してからシェドは強く手綱を引いた。 雪道に蹄の後を残して進む馬車。行き交う人のない静寂に包まれた道を行く馬車に天から次々と白い妖精が舞い降り、馬のたてがみも白く染まっていた。 シェドの体にもたれながらも、アリアは眠ることなくその熱をジッと感じていた。 いつまでこうしていられるのか。そのことを考えながら、ずっと。 |
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