(『子どもプラス』掲載)

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『ニードフル・シングズ』

 原作がスティーヴン・キングの同名小説。ホラーではないな。自分の欲しい、ものを手に入れる代償に、いたずらをすることを店主から約束させられる。ニードフル・シングズはその店の名前。ところが、そのちょっとしたいたずらが、つもりつもって、暴力の連鎖を生み、村の人たちを殺しあいの戦場に呼び込んでしまう。
 で、ボクが注目したのは、「自分が欲しいもの」というのが、青春時代のジャケットだったり、サイン入りのレアものの野球カードだったりする。庶民のささやかな願いであったりするのだ。しかし、お金を払うことはないが、その代償として為すいたずらはときに軽い犯罪行為だったりするのだ。キングのお得意の、人間の深いところにある憎しみの素、怒りの素が絶望的なまでに表出する、秀逸の作品となっている。映画としてもよくできている、本当に。

『めぐりあう時間たち』

 ボクの大好きなメリル・ストリープも出ているちょっとおしゃれなソフィスティケイトな映画です。もともとはヴァージニア・ウルフの著作『ダロウェイ夫人』が基本。その主人公や作家ウルフ自身ら、女性三人の時代を交錯させた演出が秀逸。
 映画としては、本当に良くできているし、役者も唖然呆然的感動のうまさ。最初は、あれあれと混乱。まず、何も考えずに、没頭することが必要。入水自殺から始まるけど、あとでその意味がヒタヒタと分かる。絶対におもしろくなるからね。
 二〇〇三年のアカデミー賞。才能とか、芸術の追究が悲劇的なまでに生活をぶちこわすという話。でも、そのぶちこわされた生活が本当に「悲劇」なのかどうか、よく分からなくなる。
 ちなみに、この映画は、スーザン・ソンタグが『他者への苦痛へのまなざし』で取り上げている、ウルフの反戦思想によって書かれた『三ギニー』(みすず書房)を知ってから、見つけた。

『あの子を探して』

 中国の田舎の村で代用教員になった13歳の女の子ウェイが、貧しさ故に「逃亡」した一人の教え子である男の子を捜しに街へ行く物語。
 あのチャン・イーモー監督の作品。じっくりとした鑑賞に耐えうる作品だとボクは思っている。特に印象に残ったのは、ウェイの学習指導に、子供達が大騒ぎして反抗したり、同情したりするところが面白い。
 貧しいが故に学校というものが、第一義的に子供達の集いの場所になっている。勉強ができるとか、できないということは、ずーっと先の話。高度産業社会の日本にくらべる意味もあまりないが、貧しさのシンプルさが、先生と子ども、街の人との関係にも大きく影響を与えている。
 ボクは、今の日本においても、その「子どもの集いの場」という学校の役割に違いはないのではないかと思って見ていた。
 でも、最後に、慈善の寄付で学校が「豊かになる」ところに、チャン・イーモーの残酷さを感じてしまった。

『最後の12日間』

 色々な評価がされている映画。映画とはいえ、ヒトラーや、ナチの側近があんなふうに敗北を受けとめ死んでいったのだろうか。その単細胞的な「凡庸さ」にあきれてしまった。
 戦争=人の殺し合いは、何も残さない。悲惨さだけでなく、むなしさと、絶望しかないんだよ! と確信せざるを得ない。「市民は切り捨てよ」「弱者は無視せよ」というヒトラーの言辞が、本当に通俗的に、ボクの耳に入ってきた。
 この、「凡庸さ」はどうしたことだろう。しかし、しばらくして、次のことに気づいた。結局、今現在、この映画を「凡庸に」鑑賞できてしまう、日常的に受け止めてしまえるような社会状況になっているのだということに慄然とした。映画を見ている自分自身をどう見るか?考えてみてはどうか。ヒトラーが「ヒューマニズム批判」をしたとき、それを押し返すだけのヒューマニズムを、この社会は、まだ打ち立てていないと思った。


(2007.6.3)


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