仕事ネタ

私がまだ若い頃の話なので、もちろん時効と言えるくらい昔のことです。 その当時のコンピューターシステムというのは汎用機といわれる図体のでかいものだった。 この汎用機が全盛の時代はソフトウェア技術者不足が慢性化していたために、入ってくる案件をいかに断るかが営業の仕事だった。 今からはとても想像できないことだが、これって本当ですよ。 はっきりいってどこでも猫の手でも借りたい状態が続いていたのでした。 そのため、専門学校卒でちょっとでもプログラムができれば「即、採用!」し、平気で派遣に出していたソフト開発会社がごろごろしていた。 それで派遣会社は苦も無く利益が出てしまうから技術者の教育なんて皆無だ。 考えてみればその当時の技術者不足は一人あたりの生産性の低さから来ていることは間違い無いのだが。 考えてみれば現在のソフトウェア技術者不足は、そもそもここから来ているんではないかと思いたいぐらいだ。

しかし、そんな都合の良いことは永遠に続くことなんてありえない。 景気が下降線になってくれば、当然のごとくシステム開発案件について費用対効果が問われ、それに伴って仕事の総量も減ってくる。 そうなれば、システム営業の仕事がどうやって断るかからどうやって取ってくるかに変わってくる。 今までがそんな状態だからまともな営業なんて直ぐに出来るはずがない。 当然といってしまえばそれまでなのだけど、やっと本来の営業をしないといけなくなった。

そのような時代にあっても、まともな営業をしないと商売にならないソフト開発会社にはあまり関係ない話。 しかし、そうそう一朝一夕にできるような簡単なことではない。 ソフト開発会社でのシステム営業は、営業の人とシステムエンジニアのコンビで活動するのが一般的だ。 私も営業と同行して技術的なサポートや提案書の作成やプレゼンテーションを行っていた。 当然のことながら、単なるコンピュータシステムの技術者にその会社の組織上だとか経営上の課題がわかるわけがない。 たとえわかったとしてもコンピュータシステムで解決出来るわけがない。

たとえばホームページ作成している会社にこんな話が来たとしよう。
最近、うちみたいに小さな物売り会社では相当にきびしい。おまけに利益もぎりぎりだ。 そこでホームページを作成してネット注文できるようにしてこの状況を切りぬけたいと考えている。 ちなみに今後3年間の計画をこのように立てたんだが実現できるシステムを提案してくれ。ってね。

話は変わって、私が以前の会社に勤めていた頃の話になります。 そこは大手製造業の子会社で、業務システム開発のシステムエンジニアをしていました。 このときは、入社初年度の役職なしの平社員です・・・、念のため。 必然的に私が相手をするお客様はそこの親会社となります。 まあ、どこの子会社でも同じようなものとは思いますがね・・・。 私が在籍していたその会社は親会社の目と鼻の先にあり、当然のことながら親会社の社員が出入りすることは自由となっています。 こちらも、親会社へ行くのも自由ですし、工場への立ち入りももちろん自由です。

そのような立地条件他にあるとはいえ、ちゃんとした部署は仕事の話でもアポを取ってきます。 まあ、親子の会社といっても別法人ですから当たり前なこととは思うんですがね。 しかし、アポなしで突然に人のところへやってきて仕事の依頼をしようとする人もいます。 いくらなんでも、ちゃんと営業なり窓口を通してきてほしいものです。 私はあなたの部下ではありません・・・。

そのときの会話は以下のようだった、と思います。何せ昔の話ですから。

突然、私のところにきた親会社のA製品の開発を担当しているB課長は、

B課長・・・「私のところで扱っているA製品の部品表を管理するシステムを作ってほしいのだが。」

まあ、一応ではあるが名が知れた大企業ですので部品表のシステムはすでにあるはず・・・、なので。
私・・・「部品表のシステムならすでにあるんじゃあないですか?」

B課長・・・「ああ、あるよ、しかし欲しいデータが作れなくてね。」

そんなこと、私のところに言ってくるよりは自分の会社のシステム部門に問い合わせろよ・・・。
と、心で思っても商売ですから、パソコン上でシステムを作るその目的を聞かないと始まりませんので、
私・・・「わかりました。ところで何をしたいんですか?」

B課長・・・「どういうこと?」

私・・・「いえ、システムを作る以上、何を実現したいのかを聞くのが先だとは思いますので。」

B課長・・・「システムの専門家だろう、それを考えて私に提案してくれ。」

私・・・「え?」

何か解決したい課題があるから私のところへ来たんだろう?。そのことを話してくれよ。
といっても、本音を言えるはずも無く、このまま話をしても堂々めぐりになる危険があると察した私は、
私・・・「別に提案書を作ることは何ら問題無いですよ。」

B課長・・・「じゃあ、たのむ。」

私・・・「たのむと言われても、何を実現したいのかを聞かないとこちらとしてもどうしようも出来ません。」

この後、延々と平行線のままだった。 そして何とか理解していただいて帰ってもらいました。 結局は作らなかったのですがね。どうも思いつきで来たみたいです。

その後に、親会社の別の人とシステムの打ち合わせをしていたときに、この話題が出て、
「ああ、B課長ね、ああいうひとですよ。さぞかし大変でしたね。」
「あの人は別に悪気があってそういっているんではないですよ。」
って。
どうも、会社の中では有名人のようでした。
それ以来、その人からちょっとした仕事の話がありましたが、上手に聞き出して解決するようにしている。
私もちょっと大人になった。

けどね、このことは普通の話ということを最近知った。

作成日:2005/10/26

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