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<第五章>
<オーストラリア、アデレード単独神業>
後期かんなから隊の現場神業は、琵琶湖神業から再開し、屋久島神業など10回くらい行われました。
すると末代様はなんと次に海外神業を要請してきました。
結局第一回海外神業シリーズとして、中国、ギリシャ、ネパール北インド、東ドイツ、ミクロネシア、オーストラリアニュージーランドと
計6回の海外神業が行われたのですが、そんなお金が貧乏集団かんながらにはあるわけもありません。
ところが神様はウルトラCの手を打ってきたのです。
東京のEさんは裏の世界のフィクサーの仕事をしているようで、
出所のわからない怪しいお金を計数千万円、これを使って欲しいと持ち込んできました。
このとき、メンバーの中では二つの意見がでました。
そんな汚い金を神様には使えない。
いや、神にとってお金に汚いきれいはない、だから使ってよい。
しかし私には、そんなお金さえ使わなければならないほど神は困っているのだなあと思えました。
ですから、この際、きれい汚いは無視して使わしてもらいましょうと、進言したものです。
こうして第一回海外神業として中国が決定されました。
お金を持ち込んだEさんが末代様に伺いながら海外メンバーを人選をしていきます。
私もそのメンバーに選ばれたから、パスポートを取得し、仕事のスケジュールを2週間空けるようにとの電話が入ります。
大慌てですべての準備を整えたところに、出発が1週間延びたとの連絡です。
無理です。出来ません。変更なんてとても無理です。
ショックでした。結局私は人選から外された。
私に行かせてもらえない何かがあるのだろうか。
(伏線)
中国行きが決まったころ、その頃住んでいた静岡市で神業がありました。
静岡市の海岸線に「古宿」という集落があります。
ここは日本平のふもとと言ってよい場所で、そこに小さな神社がありました。
粗末な社殿の前で、火と水と野菜などをお供えし、祭りを行います。
Oさんの取次ぎが始まります。
ところが不思議なことを言い出し始めました。
「ここには用事はない。社殿の奥手に行きなさい」
裏は石垣イチゴのビニールハウスです。その奥にちょっとした広場が見えます。
なんとか行けそうなのでみんなでとぼとぼ歩いていきます。
周りをうっそうとした林が取り囲み、草が敷き詰められたように低く生えています。
私のような鈍いものにでもわかります。
ここは異次元だ。
「今日ここから命の息吹が噴出した。今度噴出すのは60年後。
皆も、この息吹を感じなさい。ここに御神塩をまきなさい。
しかし噴出したのはここ一箇所ではない。
地球上の正三角形の三点。1点はこの真下です。、」
真下?
足元を見つめます。サニワのMさんが呟きます。
「おい、真下っていうとチリぐらいかなあ。戸田君、こんど地球儀で調べておいてくれ」
後日親友のSさんにこのことを話すと、驚くべき解答をもってきたのです。
「どう考えても、地球の裏側の感じがしない。正三角形のほかの2点がしっくりとこない。
世界地図をじっと眺めていて気が付いた。古宿から真下、そのまま直線でおろすとオーストラリアのアデレードを通る。
ここを2点目として正三角形をひいてみるとモルジブだよ。
この島を含めた三点の方がしっくりくる。」
「古宿」「アデレード」「モルジブ」
彼の図形に対する感性に、昔から一目置いていた私は、それだと思いました。
だとすると、「古宿でまいた御神塩」を他の2箇所にもまかなくちゃあならない。
いずれそんな時がやってくるのだろうか。
二人でビールを飲みながら話し合ったことを思い出します。
ところが奇跡が起こります。
デパートで親しくしている店員の女の子が、私来週モルジブに行くよ。
私でよかったらモルジブでまいてきてあげようかと言い出しました。
なんたることだ。
しかしこれで無事モルジブには塩をまくことが出来ました。
後はアデレードだけです。
そんな時、私はパスポートと2週間の休暇を持ってしまったのです。
こりゃいかん、私にアデレードへ行けというのか。恐る恐る末代様に伺ってみました。
「行きなさいと言ってるわよお」
いつもの調子であっさり言ってのけます。
一回も日本から出たことのない私に、一人で行けというのか。
言ってしまったのは私ですが、怖くて怖くて行きたくない。
それにこんなに急ではチケットも、ビザも取れるはずはありません。
無理ですよ、不可能ですという私を横目で見ていたEさんは知り合いだという旅行代理店に電話を入れます。
「なんとしても、ビザ、航空券、ホテルを取れ」
かくして私は生まれて初めての海外旅行を、たった一人でいくことになります。
前の晩から寝られませんでした。
成田空港に着くまで何度も旅行ガイドを読み返します。何しろ2日前にチケットの束をポンと渡されただけです。
前日買ったガイドブックによれば出国手続きはめんどくさそうです。
機内サービスが英語しか通じなかったらどうしよう。
シドニー空港では違うターミナルで乗り換えなくてはならないらしい。
見合いとか結婚式の前でもあんなに緊張したことはありませんでした。
死ぬ思いで乗り込んでみると、JALでアテンダントは日本人ばかりでした。
ああこれならシドニーまでは何とかなるぞと少し落ち着いてみると、機内はすべて新婚さんばかりでした。
大安の日曜日の夜の出発であったことに、やっと気が付きます。なんてこった。
結局一睡も出来ませんでした、二日続けての徹夜です。
神様もひでえこをするなあ。
まったく日本語が通じない、シドニーの国内線専用の空港ロビーに
タクシーでたどり着けた私は、チケットを係員に見せて「フェアー?」とだけ騒ぎます。
「ガイトアイ」
はあ? なんじゃそりゃ。ガイトアイ?何回も聞きなおしているうちに、
機内で読んでいたガイドブックのあるページが目に浮かびました。
神様が見せてくれたのです。
オージーイングリッシュとして「ゲイトエイト」を「ガイトアイ」と発音すると。
ツデイ(今日)はツダイと、ホリデイはホリダイだと。
そのページが見えたのです。霊視だったのかもしれません。
そうか、8番ゲートへ行けというのか。
ああ、神様は私を見守っている、応援してくれている、
ひょっとするとこの単独神業は成功するかもしれないと初めて思いました。
シドニーからアデレードまではカンガルーのマークで知られているアンセット航空のジェットです。
何も高い建物がないせいでしょうか、随分低いこところを飛びます。
どこまでも赤い大地が続きます。
機は着陸態勢に入りました。右側の窓側に座っていた私は、驚くべき景色を見つけます。
静岡の私が借りていた家は、日本平のふもとの小高い丘の上にありました。
静岡駅から東京に向かう新幹線の右側にその丘は見えます。
ところがアデレードにもそっくりな丘があったのです。
あっ、あれだ。あの丘の頂上に行けばいいんだ。
空港からホテルへ行くタクシーの運転手さんと、ちょっと会話してみると
私のつたない英語を一生懸命理解してくれようとする、とても気持ちの良い青年でした。
ホテルに着いたとき、私はあの丘のトップに行きたい、あす1日付き合ってもらいたいと頼んでみました。
彼は不思議そうな顔をしましたが、直ぐに、にっこりしてOKと。
ふーん、うまくいくときは、うまくいくんだ。
その夜は最上階にあるホテルのレストランで、英語しか書いてないメニュとにらめっこして、
まず間違いのないツダイスープを選び、生牡蠣を食い、後は何とか魚を食ったのだが実のところよく覚えていない。
ウエイトレスさんに南十字星を知っているかと聞くと、にっこり笑って私の腕を掴む。
どんどん引っ張っていき、屋上に出ると、星を指指し始める。
わん、つう、すりー、ふぉー、くろす。
どうしてこの国の人はこんなに外国人に親切にしてくれるんだろう。
<アデレード単独祭事>
翌朝定刻に迎えに来てくれた運転手さんに連れられて、丘のてっぺんに到着します。
そこには何にもありません。
そこそこの広さの空き地です。
しかし地面にはコンクリートが引いてあり、何かが建っていた気配がある。
彼はここにはレストランがあったが、ガス爆発でなくなってしまったと手振り身振りで教えてくれる。
ここでOK、2時間ほど一人にしておいてくださいと頼むと、彼は車とともにどこかに消えていきます。
日本から持参した、塩、5種類の色の豆、そして水をお供えしてローソクに火をともす。
そして2礼3拍手をして、三全根元(さんぜんこんげん)とのります。
まったくそのあたりには誰もいませんから、思い切り大声を出します。
日本に届けと。
ここにおわします神様にご挨拶を申し上げます。
私はかむなからのとだしんやと申します。
から始まり、ここへ至るまでのいきさつや、古宿、モルジブ、アデレードの三点のこと、思いつくままのことをしゃべります。
もう何も話すことがなくなった時点でわれに返り、そうだ塩撒かなくっちゃとあたり一面に1キロの塩を撒き広げます。
終わった。
その後近くにある自然公園でコアラを抱き、カンガルーを横目でにらみながら脇をすり抜け、
襲ってきたらどうしようどびびりまくりました。
次の日はアデレード地内を歩き回り、これでアデレードは終了です。
次の日はメルボルン、その次の日はシドンーでバスツアー観光に参加し、
オーストラリア神業は了となりました。
なにかわからないけど、大きな仕事を成し遂げたような安堵感でいっぱいでした。
帰りの飛行機もJALです。
24のひとみの映画が始まりました。窓も締め切り、機内は真っ暗です。
機長のアナウンスがあります。
当機はまもなく赤道を通過します。
私には霊能がありません。なにも見えません、なにも聞こえません。
しかしこの時だけは聞こえたのです。
ありがとう ありがとう
涙があふれます。
ありがとう ありがとう
間違いありません。確かに聴こえるのです。
タオルを顔に押し当てて、声を押さえて嗚咽します。
体が小刻みに震え、涙が止まりません。
隣の若い夫婦は私が映画で泣いていると思っているのでしょう。
泣いている私を無視してくれています。
何故だか私にはわからないが、南の、オーストラリアの神々が
私なんかにお礼を言っている。
ありがとう ありがとうと言ってくれている。
これでオーストラリア、アデレード単独神業のおはなしは、おしまいです。