短 評

「ほうか」

日本語と英語

資質より性向

<日本語から英語への変換における問題>
 

 少し前に、新聞で次のような記事を見かけました。些細な記事ですが、日本語と他言語との関係を考える上では興味深い記事でした。

  中部国際空港開港に向け、いったん「完成」していた空港へ渡る連結道路の標識が、  夏休みの間に書き換えられた。愛知県道路公社が空港の愛称「セントレア」を「Sentorea」とローマ字表記していたが、空港会社のロゴなどに合わせた正式な英語表記の「Centrair」に改めた。現在は緑色のカバーがかけられ、来年2月の開港を待つ。
 空港島内の貨物地区へ下りる「セントレア東インター」出口を示す標識。国土交通省と内閣府の共同省令が「(標識は)外国人にもわかりやすいようにローマ字表記で併記する」と定めているため、公社は「ローマ字つづりにしなければならない」と解釈。ヘボン式のつづりで表記した。
 だが、セントレアはもともと中部を表す「Central」と空を表す「Air」の合成語。島内のほかの施設も英語表記の看板を掲げており「利用者の混乱しない統一した表記にすべきでは」(空港会社幹部)と、書き換えを求める声が上がっていた。
 阪神高速にある「ユニバーサルシティ出口」の標識が「Universal City」と英語表記されている例もあり、国交省側も「しゃくし定規に限定するものではない」と同公社に説明。公社は「広く解釈できるとは知らなかった」と書き換えた。

 日本の標識は、外国人がわかりやすいように日本語表記の下にローマ字が表記されています。例えば、「渋谷」という文字の下に「Sibuya」と表記されています。
今回の場合は、空港島内のほかの施設は英語表記の看板をかかげているにもかかわらず、横文字の「セントレア」だけをローマ字表記にしてしまったために起きた問題と言えます。「Sentorea」は一見、ローマ字のようには見えません。ふつうに読むと、「セントリア」と読んでしまいそうです。誤解が生じるのはもっともであると言えます。この問題は、和製英語をローマ字によって標記しようとしたことで起きた問題です。

 ここで、和製英語を、日本人にはわかりやすいが外国人にはわかりづらい言語、つまりは日本語と捉えてみます。一方で、ローマ字を、日本人にはわかりづらいが外国人にはわかりやすい言語、つまりは英語と捉えます。すると、この問題は、日本語を英語で表そうとしたために起きてしまった問題であると考えることができます。

 私は以前に、この「セントレア」のケースと似たケースを聞いたことがあります。それは、元テニスプレイヤーの伊達公子選手にまつわる話です。海外で行われるテニスの大会では、当然のことながら、日本選手の名前は英語を使って表記されます。「伊達」をローマ字表記すると、「Date」になります。これは、英語の「date(日付)」と同じつづりであるために、誤解が生じたことがあったようです。

 また、日本人の名前がローマ字を用いて、Jun-ichiと表記されている場合があります。見ればわかるように、「Jun」と「ichi」の間にハイフンが入っています。日本語名の「潤一」をそのままローマ字表記に直すと「Junichi」となってしまいます。これだと、「ジュニチ」と読まれてしまう可能性が高いでしょう。そこで、そういった事態を避けるために、ハイフンを用いたと考えられます。これは、読み方の誤解をなくすためのよい方法であると思います。

 さらに、姓名の順序についての問題があります。日本人や韓国人、中国人などの姓名は、名字、名前の順番です。一方、欧米では、姓名は、名前、名字の順番です。日本語名を英語で書き表わすとき、日本語の順序のままにするか、それとも、欧米流の順序に直すかは、考えさせられるところです。ちなみに、中国人の場合は、英語で名前を表記するとき、欧米流に合わせず、名字、名前の順序のままのようです。
 ところが、日本人は、自分の名前を英語で書き表わすとき、欧米流に合わせて、わざわざ名前、名字の順序に直してきました。これは、明治の文明開化による西欧文明の流入が関係しているようです。
 しかし、例えば、「Norinaga Motoori」や「Inazou Nitobe」などと書かれると非常にわかりづらい気がします。会話で、「ノリナガモトオリ」や「イナゾーニトベ」と話されても、すぐには誰のことであるか理解できません。実際に書いたり話したりするときには、日本人の名前は、名字、名前の順序が適しているように思います。
 また、欧米人は日本人の名前が、名字、名前の順序であることを知っています。わざわざ名前、名字の順序に直すと、どちらが名前でどちらが名字であるのか、かえって混乱してしまうかも知れません。
 それを打開するための方法が、最近の学術論文などで見られます。それは、名字をすべて大文字で書き、名前は最初の文字だけ大文字にするというやり方です。例えば、「山田太郎」という名前なら、「YAMADA Taro」と書き表わすといった具合です。このやり方は、なかなかいいと思います。一見しただけで、どちらが名前で、どちらが名字であるのかがわかります。

 日本語から英語へのローマ字を使った変換は、期せずして思わぬ誤解を生じさせることがあります。これは、日本の国際化に伴う問題です。特に、固有名詞の場合には、その日本語に対応する英語が存在しないことがほとんどです。先程のハイフンを用いた例や、名字だけを大文字で表す例のように、何らかの工夫を必要です。





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