山地と山脈の違い・湖と池の違い・山と岳の違い・高地と高原の違い・丘陵と台地の違い・海抜と標高の違い・工業地帯と工業地域の違い・府と県の違い・諸島と群島の違  
 【違いが気になる地理語
《1》 山地と山脈の違い
 山地とは,周囲より土地よりも高くなった突起部やそれが集まった地形をいう。紀伊山地・中国山地・九州山地など。山脈とは,山の頂上部分が一本に連なっている山地のことをいう。日高山脈・奥羽山脈・飛騨山脈など。ただ,このあとの高地・高原,丘陵・台地などもそうだが,個々の地名については,必ずしも明解な基準に基づいて命名されているわけではなく,定義と一致しない場合が多い。国土地理院による名称が学校で使用する地図帳に使われている。世界地図をみると,ヒマラヤ,ロッキー,アルプスなどはすべて山脈である。
 また,山地平地に対する地形を表す用語として使われる場合があり,ちなみに日本の山地対平地の比率は7対3,30%の平地に総人口の90%の人々が生活している。


《2》 △△山と▽▽岳の違い
 とは周囲より土地が著しく高く起伏しているところ,またはそれらが集まっている地帯をいう。は,一般には,高い頂上部分を持った単独の起伏をいう。四国の最高峰は石鎚山だが,石鎚山と呼ばれる山塊のうち,頂上部分は天狗岳と呼ばれる。北海道最高峰の大雪山と赤岳,日本第二の高峰白根山と北岳なども同様である。北アルプスの穂高連峰にも,多くの山頂部分があり,それぞれ,西穂高岳,前穂高岳,奥穂高岳などと呼ばれている。奥穂高岳の隣の槍ヶ岳は頂上部分が一箇所の単独峰である。ただ,八ヶ岳のように山頂部は赤岳と呼ぶが,山塊全体も山ではなく,岳と呼ぶ場合もあり,厳格に定義されているわけではない。

《3》 高地と高原の違い
 高地とは,丘陵や台地よりも標高が高く,緩やかな起伏があり,谷がよく発達し,全体として表面がなだらかな山地のことという。北上高地,丹波高地など。高原は,起伏が小さく,谷が発達ていしない平坦な面が広がる高地のことをいい,一般に狭い地域についていう。志賀高原・美ヶ原高原など。ただし,チベット高原やエチオピア高原など世界の大地形でいう高原は定義が異なる。

《4》 丘陵と台地の違い
 丘陵山地のうち,谷がよく発達し,頂部が丸みをおび,なだらかで,稜線部と低地部との標高差が約300m以下のものをいい,山地よりも規模も小さい。多摩丘陵・房総丘陵など。台地とは,平野盆地のうちの一段と高い台状の土地をいう。下総台地・牧ノ原台地・上町台地など。

《5》 一級河川と二級河川の違い
 一級河川は「国土保全上,または国民経済上とくに重要な水系」と国土交通大臣が指定した河川。二級河川は一級水系以外の河川で「公共の利害に重要な関係がある河川」として都道府県知事が指定した河川をいう。水系とは,その河川に流入する支流や湖沼を含めていう。つまり,信濃川の場合,上流の千曲川や犀川をもちろん,どんなに細く,流れが少なくても信濃川の支流はすべて一級河川となる。2県以上を流れる川はほとんとが一級河川なので,長野県や群馬県・岐阜県など内陸県では県内を流れる川はすべて1級河川である。一方,沖縄県には一級河川かない。

《6》 湖・沼・池の違いの違い
  とは,内陸にあって地表に水をたたえている窪地で,水深が5m以上,岸近くの浅いところに水中植物が生育しているものをいう。水深2m以下で,中央部まで水生植物が生育しているものはというは一般的に水深に関係なく面積の小さいものをいい,とくに人工的につくられたものをさすことが多い。しかし,固有名詞は慣用的なものが多く,北海道の周囲27kmのクッチャロ湖は最大水深が3mほどしかなく,周囲26kmの大沼は平均水深が11mもある。湖山池(鳥取県)やまんのう池(香川県)のように芦ノ湖(神奈川県)や河口湖(山梨県)よりも大きな池もある。(4-14参照)

《7》 諸島と群島の違い
 どちらも島々が集まっている場所をいい,一般には広い海域に分布している場合を諸島,狭い海域に集まっている場合を群島というが,やはり明確な基準はない。国土地理院の地形図では,諸島が基本となっているが,地元の要望や実状によって「歯舞諸島」を「歯舞群島」,「奄美諸島」を「奄美群島」に変更した事例もある。
《8》 地形図と地勢図の違い
 地形図は,空中写真や野外測量などによって作成され,実測図と呼ばれ,国土地理院は5万分の1地形図,2万5千分の1地形図を発行している。地勢図は,実測図や資料をもとに作成され,編集図と呼ばれ,20万分の1地勢図などがある。市販の市街図や道路地図,地図帳などで使われる地図も編集図である。

《9》 三角点と水準点の違い
 三角点は地図を作成するために,測量する位置の基準となる点で,見晴らしのよい山頂などに設置されている。経緯度を測量する。水準点は,土地の標高の基準となる点で,全国の主要道路沿いに1〜2kmごとに設置されている。現在では,さらにより精度の高い測量網を構築するため,衛星からの電波を連続的に受信する新しい基準点として電子基準点が全国1200箇所に設置されている。

《10》 標高と海抜の違い
 標高とは,水準原点(24.3900m)を基準にして測られた土地の高度をいい,海抜とは平均海面(0m)からの高度のことをいう。国会議事堂付近に設置されている水準原点の高度24.3900mという数値は東京湾の平均海面を基準としているが,沖縄や離島の水準点はそれぞれの島の周囲の平均海面を基準としている。もちろん,標高と海抜の数値は同じで,標高=海抜と捉えて不都合はない。ただ,「海抜0メートル地帯」というように,海沿いの低い土地に対しては海抜を使う傾向があり,山の高さをいう場合,国土地理院では標高を使っている。

《11》 北西と西北の違い
 その違いは,東西を優先するのが日本の文化南北を優先するのが欧米の文化であり,国際基準である。
 日本という国号や国旗の日の丸が示すように,日本人は古来より太陽への思い入れが非常に強い。そのため,日の出や日の入りの方位すなわち東西の方位を重視し,東北地方や東南アジア,西南戦争,さらに早稲田の校歌が「都の西北〜♪」とあるように,日本では東西を先にして言い表してきた。
 しかし,テレビの天気予報を聞いていると,「南西の風」とか「台風は進路を北東へ向け…」など南北を先にした表現が使われている。これは明治以降,気象科学の分野では欧米の影響を大きく受けてきたためだ。日本に輸入された気象観測の機器や文献はすべて英語,技師もイギリス人,「north-west」の表記はそのまま「北西」と直訳され,日本でも方位を表す場合は南北を先にして表現されるようになった。
 さらに,気象情報は国際間で共有し管理する必要から,方位に関する用語は南北を優先する欧米のスタイルが国際基準となり,現在ではこの表現方法が国際社会で定着している。 
                       ※拙著「なるほど日本地理」より抜粋,改稿    

《12》 国立公園と国定公園の違い
 国立公園とは「国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地(海域の景観地を含む。)であって、環境大臣が自然公園法の規定により指定するもの」をいう。全国で30箇所が指定されており,その面積は国土の5.5%の約209万haを占め,国(環境省)が管理する。国定公園は,国立公園に準ずる自然の風景地について、関係する都道府県の申し出により自然環境保全審議会の意見を聞き,国が指定し,都道府県が管理する公園である。
 他に,国土交通省が設置する都市公園や緑地などの国営公園があり,戦前までは旧皇室苑地であった皇居外苑・新宿御苑・京都御苑など国の直接管理のもとに広く国民に開放されている国民公園がある。
 ・環境省国立公園HP http://www.env.go.jp/park/

《13》 天気・天候・気候の違い
 どれも,特定の地域の気象状態を表す言葉だが,その違いは時間にある。天気は数時間〜1日,天候は数日〜1ヶ月程度,気候は1ヶ月以上の比較的長期の気象の状態をいう。「明日の天候は午後に雨が降りそうだ。」「来週1週間の天気は晴れが続き,お花見に最適だ。」「日本の夏は蒸し暑い天候が続く。」 このような表現はおかしい。

《14》 工業地帯と工業地域の違い
 社会科教科書『新しい社会』を出版している東京書籍では,工場が集積した歴史的な展開,工業地の広がり具合や生産額の規模を考慮して,地帯と地域を区別すると説明している。『中学生の地理』を出版している帝国書院では,工業地帯は,戦前から昭和30年代の高度経済成長期までに形成された,京浜・阪神・中京・北九州についてのみ用いることが慣例となっており,高度経済成長期以降に形成された工業地については工業地域の呼称で呼び慣わされていると説明している。
京浜・阪神・中京・北九州だけを工業地帯と呼ぶのは,明治以来,繊維を中心とする軽工業から製鉄や造船など重工業まで多くの工場がこの4地域に集中し,1世紀以上にわたって日本の近代工業を支えてきたからだ。1960年頃には日本の工業生産額の約70%を四大工業地帯が占めていた。しかし,日本が高度経済成長期に入ると,瀬戸内,東海,京葉などの埋め立て地にも大工場が進出するようになった。ただ,それらは独立した工業地帯ではなく,四大工業地帯の広域化として発展したものであり,当初は生産規模もまだ小さかったので,先行の四大工業地帯とは区別して工業地域と呼ばれるようになった。
 しかし,さらに半世紀を経た現在,工業生産額を見ると,関東内陸工業地域や瀬戸内工業地域は,かつては1位だった京浜工業地帯や阪神工業地帯を上回り,また,北九州工業地帯は第9位まで低下し,高度経済成長期とは大きく様変わりしてしまった。工業地帯や工業地域という区別はもはや意味を持たなり,今では工業地帯と表記せず,すべて工業地域に表記を統一している教科書もある。

《15》 埋め立て地と干拓地の違い

 埋め立てとは,海や湖に土砂やゴミを大量に投入して土地を造成することをいう。陸上競技場や熱帯植物館がある夢の島公園は,東京都のゴミ処分場であったことは有名だが,ディズーランドや関西空港,歴史をさかのぼると長崎の出島なども埋め立て地だ。
 
干拓は,水深の浅い海や湖,干潟などを堤防で囲み,内側を排水したり,干上がらせるなどして陸地にすることをいう。農地として開拓する時に用いられ,国内では八郎潟や有明海が有名だ。オランダはポルダーと呼ばれる海水面よりも低い干拓地が国土の4分の1を占めている。

《16》 養殖漁業と栽培漁業の違い
水産資源の減少や保護にとももない『獲る漁業から育てる漁業へ』が重視されるようになった。養殖漁業とは,魚・貝などを網で囲った湾や池で,餌を与え,人の手で育てる方法である。栽培漁業とは,卵からふ化させて稚魚をある程度の大きさまで育てて,海や川に放流し,放たれた稚魚は自然の中で成長する。養殖と異なり,回収率は低くなるが,養殖のように,食べ残した餌で海や川を汚染したり,赤潮や台風などの災害を受けることが少なくなる。

《17》 和牛と国産牛の違い
 和牛とは,日本在来品種の牛のことであり,松阪牛や近江牛として生産される黒毛和種の但馬牛はその代表である。国産牛とは,和牛以外の国産の牛のことで,ほとんどは乳用ホルスタイン種である。搾乳できなくなった老牛や雄牛などが肉牛として肥育されている。また,どのような牛でも,海外から輸入し,一定期間を国内で飼育すれば国産牛として表示することが認められている。また,最近は,オーストラリアなどで日本向けの和牛が飼育されているが,それを輸入し,国内で育ててもさまざまな用件があるので,松阪牛などの銘柄牛の表示はできないが,「オーストラリア産和牛特上ハラミ」などの表示で販売することはできる。(2-21参照)


《18》 食料と食糧の違い
 食料とは食べ物全般のことをいい,食糧は,米や麦など主食類である穀物類をいう。これが一般的な解釈だが,「糧」は「かて」と読み,源(みなもと)という意味があり,食料が,直接食べることができる個々の食品をさすのに対し、食糧は広い意味で食用となるものをいう場合がある。たとえば,肉は食品だが牛や豚などの家畜は食糧である。

《19》 稲と米の違い
 稲とはイネ科の1年草で,植物の名である。はその稲の実,つまりいわゆる米粒のことたが,植物としての稲のことも米と呼ぶ場合がある。英語では稲と米の区別はなく,どちらも『rice』である。

《20》 太陽熱発電と太陽光発電の違い
 太陽熱発電とは,太陽光線をレンズや反射板を使って太陽炉に集めて熱源とし,火力発電と同じように高温水蒸気を発生させてタービンを回転させ,発電する方法である。太陽光発電は,光が当たることによって電気を発生する太陽電池を利用して直接電気をつくりだす。太陽電池は,P型・N型という異なる性質を持つ2種類の半導体の層を組み合わせたもので,これをいくつも並べて接続したものをソーラーパネルという。パネルに光が当たると,発生したプラス電子はP型半導体に,マイナス電子がN型半導体に引き寄せられ,電流が流れ出すというしくみである。電池といっても電気をためておくことはできない。

 
《21》 関東地方と首都圏の違い
 関東地方地方区分の定義に示したように東京、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川の7都県のことで,かつては坂東や関八州とよばれ,関東山地などの険峻な山地で周辺地域とは地理的に区切られていた関東平野を中心とした地域をいう。首都圏とはこの関東地方7都県に山梨県が加えた8都県をいう。首都東京を中心とした広域的な整備・発展を目的として1956年に首都圏整備法が制定され,東京を中心に概ね半径150kmの範囲が首都圏とされたた。
 
《22》 関西地方と近畿地方の違い
 近畿という言葉は大宝律令が制定されたおよそ1300年前,律令体制を整えるために朝廷が全国を七道と呼ぶ7地域に行政区分し,都の周辺地域を畿内と呼んだことに由来する。畿内とは山城・大和・河内・和泉・摂津の5か国を指し,現在の奈良県・大阪府の全域,京都府南部・兵庫県東部にあたる。この畿内に近接する地域が近畿である。明治以降,学校教育で全国の8地方区分が定着すると,大阪・京都・滋賀・三重・奈良・和歌山・兵庫の2府5県が近畿地方と呼ぶようになる。
 関西の範囲は三関より西(5-1参照),つまり通常は三重県は含まず,大阪・京都・滋賀・奈良・和歌山・兵庫の2府4県とされている。しかし,これは慣習的な概念で明確な定義はない。
 
なお,近畿○○局など行政機関や高校野球近畿大会など公的な名称の頭に付くのはほとんどが近畿だ。逆に,関西人・関西風・関西弁という言葉はあるが,近畿人・近畿風・近畿弁などとは言わない。近畿は行政面の地域名,関西は文化面の地域名と,慣習的に使い分けられているようだ。
 
 《23》 府と県の違い 
 現在,地方自治の行政機関として両者の権能には何ら差異はないが,歴史的に見ると府と県の成立過程が少し違う。明治維新までさかのぼるが,旧幕府軍との戦いに勝利した新政府は,明治元年(1868),幕府の直轄地であった神奈川・新潟・越後・甲斐・度会・奈良・箱館・長崎・大阪の9箇所にを,会津藩など朝敵からの没収地20箇所にを設置した。それ以外はまだ大名領として藩が残っていた。,翌明治2年に,府は東京・京都・大阪の3府のみになり,それ以外はすべて県となった。その後,東京は第2次世界大戦中の1943年に首都機能の強化のために都制へ移行した。なお北海道にも当初は函館・札幌・根室の3県が設置されていた。 (1-10参照)
 府という言葉には「太宰府」「幕府」「政府」などのように行政機関の中心という意味があり,県は古代中国の春秋時代から続く地方行政区画の制度に由来する。
                                  ※拙著「なるほど日本地理」より抜粋,改稿
     
   
 《24》 町と村の違い
 人口の多いのが町,少ないのが村,人口の多少が町と村の違いと思っている人が多い。一概に間違いと断定はできないが,町と村には実はもっと明確な違いがある。
 集落を意味する言葉で,「町」という漢字を含むものとして,城下町・門前町・宿場町・港町などがあり,「村」を含む言葉として,農村・漁村・山村などがある。しかし,宿場町や港村,農町や漁町という言葉もない。これらの言葉の町を村,村を町へ置き換えることはできない。
 農林業つまり第1次産業を基幹とする集落がむら(村),鉱工業や商業など第2次・第3次産業を基幹とする集落がまち(町)である。第1次産業を営むには,田畑にしろ,漁場にしろ,ある一定の広さが必要だが,第2次・第3次産業は土地の制約をほとんど受けずに成立し,限られた面積で多くの住民の生活を可能にする。また,第1次産業はどんなに人口が少なくても成立するが,第2次・第3次産業はある程度の人口の集中がなければ成立が難しい。その結果として,村よりも町の人口が多くなるわけである。

                                   ※拙著「なるほど日本地理」より抜粋,改稿        
《25》 町と街の違い
 町は上記の意味だけではなく,「○○県△△郡★★町」や「□□市☆☆町」のように行政の単位として使われる場合である。街は,町の中の家屋の密集した一区画を指す。商店街,飲食街,住宅街,街路樹,街灯などの使い方をし,英語でいえばstreetのようなものだ。
 
定義が気になる地理語
《1》 島の定義
 島の定義は機関によって異なっている。海上保安庁は「満潮時に海岸線の延長距離が100m以上のもの」を島と定義し,国土地理院の地形図では,「航空写真に写るもの」を基準としている。島より小さなものは岩礁と呼ぶ。また,国際的な定義としては,国連海洋法条約では,「自然に形成された陸地であって,水に囲まれ,高潮時においても水面上にあるもの」が島とされており,畳6畳の広さもない日本最南端の沖の鳥島が,国際的に島と認知されている。島と大陸と島の区別については,相対的なものであり,ユーラシア,アフリカ,南北アメリカ,オーストラリア,南極の6大陸以外のこれらより面積の小さい陸地が島である。(1-7参照)

《2》 海岸線の定義
 陸地と海面の境界が海岸線である。しかし,海面は潮の干満や波浪によって昇降し,海岸線は一定しない。国土地理院は,地図に記載する海岸線について,「満潮時における正射影(上から見た形)を表示する」と基準を定めている。最高潮位のときでも水没しない土地が陸地である。ており,したがって,有明海に見られるのような広大な干潟は陸地ではなく,海に区分される。
 ただし,
海図では,干潮時の海岸線を陸地の縁辺として描いており,干潟は陸地であり,水深の表示も干潮時の水面を基準としている。これは航海の安全の必要上からである。

《3》 死火山・活火山の定義
 かつて火山は,活火山・休火山・死火山の3種類に区分された。活火山は,浅間山や阿蘇山のように現在も活動中の火山,休火山は,富士山のように過去には噴火の記録はあるが,現在は活動していない火山,死火山は,箱根山のように有史以来噴火がない火山と定義されていた。しかし,死火山と思われていた木曽御岳が1979年に噴火し,この分類の不合理が指摘され,学術的には休火山・死火山の語は廃された。現在は,噴火記録のある火山や活発な噴気活動がある火山はすべて火山とされ,気象庁は国内の110の火山を活火山に指定し,さらに活動の兆候から次のように分類している。
  
Aランク/100年活動指数5以上または1万年活動指数10以上 13火山(有珠山,浅間山,三宅島,阿蘇山,雲仙普賢岳,桜島など)
  
Bランク/100年活動指数1以上または1万年活動指数7以上  36火山(雌阿寒岳,富士山,草津白根山,焼岳,木曽御岳,硫黄島など)
  
Cランク/ABよりも低い活動指数                   38火山(大雪山,八甲田山,八幡平,妙高山,乗鞍岳,開聞岳など)
  北方領土の火山や海底火山などデータ不足で分類できず     36火山
 なお活火山に指定されなかった大山(だいせん)のような火山は「活火山以外の火山」と呼び,決して活動の停止を意味するものではない。

《4》 河川の右岸と左岸の定義
 この定義は明解だ。上流から下流に向かって左側を左岸,右側を右岸という。島や湖のように北岸,西岸など方位で示さないのは,川は蛇行するからだ。

《5》 山の△合目の定義
 高い山に登ると,ふもとの一合目から始まり,頂上の十合目まで登山道には△合目という区切りの表示がある。これは標高や行程を等分したものでなく,登山する際の困難の度合いを目安として10等分したものだといわれている。
 合目という登山道でしか使われないこの言葉の由来何だろうか。米粒を落としながら登っていくと,その量が1合になった場所を一合目,2合になった場所を2合目と呼んだという説,夜は灯りをと灯しながら登るので,1合分の油を使い切った場所を1合目と呼んだという説,登山の苦しさを人生の苦難に見立て,梵語の「劫(ごう)」が変化したという説などさまざまあるが実際のところはわからない。ただ,富士山のような高い山だから15合目,低い山だから3合目までということはなく,どんな山でも山頂を十合目として,区切られている,しかし,磐梯山(福島県)だけが山頂は五合目となっている。磐梯山は過去に大噴火によって,山頂を吹き飛ばされ,山体が大崩壊しているが,そのため六合目より上の部分がなくなったといわれている。興味ある話だが真偽は分からない。

《6》 温泉の定義
 日本には3000を超える温泉地があ.るが, 温泉とはどのように定義されるのだろうか。温泉法では,温泉の基準を次の2つの条件のうち,片方を満たしていることと定めている。
  1 温泉源で採取されるときの温度が25度以上あること。
  2 炭酸など法律で規定する19種類の成分のうち,どれか一つが規定量以上含まれること。

    ・溶存物質  ・遊離炭酸  ・リチウムイオン  ・ストロンチウム  ・バリウムイオン  ・総鉄イオン  ・マンガンイオン  ・水素イオン
    ・臭化物イオン   ・ヨウ化物イオン  ・フッ化物イオン  ・ヒ酸素イオン  ・メタ亜ヒ酸  ・総硫黄  ・メタほう酸  ・メタ硅酸   
    ・炭酸水素ナトリウム  ・ラドン  ・ラジウム塩
 これらの含まれる成分の量によって塩化物泉,炭酸水素塩泉,硫酸塩泉,二酸化炭素泉(炭酸泉),含鉄泉,硫黄泉,酸性泉,放射能泉などに分類される。 しかし,25度なんて,夏のプールの水温より低いが,「年平均気温以上の温度を持つ地下水を温泉とする」という国際基準に従って,日本の夏の平均気温を適用したのだそうだ。温泉の基準といってもそう高くはなく,近年,各地に温泉が増えたのはそんな理由からだ。
 
《7》 台風の定義
 熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼び,このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海にで発生し,低気圧域内の最大風速が秒速17m以上(10分間平均)のものを「台風」と呼ぶ。
 なお,台風は古来より日本では「野分」と呼ばれており,台風という言葉は日本語と思われがちだが,明治時代に,気象台長の岡田武松氏,英語の「typhoon」を台風の漢字を当てたのが由来とされている。typhoonの語源としては,ギリシャ神話の怪物「Typhon」,アラビア語で嵐を意味する「tufan」,中国語広東方言の大風(tai fung )など諸説があるようた。

《8》 雪国の定義
 冬になると,日本は沖縄県以外のどこでも雪が降る。もちろん雪が降る地方がすべて雪国と呼ばれるわけではない。雪国という言葉は日本人が昔から使っており,明解な定義があるわけではないが,国土交通省は「2月の積雪の深さの最大値が累年平均50cm以上,1月の平均気温の累年平均が0°C以下の地域」を積雪寒冷地域に指定している。その範囲は,東北地方以北,長野県・岐阜県などの本州中央部,本州の日本海側のほぼ全域に及び,実に国土の総面積の62%を占めている。
 また,雪国では20cm程度の積雪は当たり前だが,東京や大阪など太平洋側の都市では5cmも雪が積もれば都市機能はマヒし市民は大混乱,そのため
大雪警報の基準もちほうによって大きく違っている。
 大雪警報地域別発表基準
  *札幌<平地40cm 山間部60cm>     *仙台<平地30cm 山沿い60cm>     *新潟<平地70cm 山沿い100cm>
  *東京<平地20cm 多摩西部30cm>    *大阪<20cm>         *福岡<30cm>

9》 地方区分の定義
 NTTは日本を東西2つに区分し,NEXCOは3区分,JRは6区分,地方区分といっても法人や省庁の事情で異なっている。そんな中でもっとも広く使われており,現在学校の教科書などでも採用されている8地方区分について説明する。
○区分 
  ・北海道(1道)
  ・東北地方(6県)
青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島
  ・関東地方(1都6県)
東京、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川
  ・中部地方(9県)
新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知
  ・近畿地方(2府5県)
京都、大阪三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山
  ・中国地方(5県)
鳥取、島根、岡山、広島、山口  
  ・四国地方(4県)
徳島、香川、愛媛、高知
  ・九州地方(8県)
福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄 
○地方名の由来
  ・北海道/国内にはすでに古代から西海道・南海道・東海道と呼ぶ地方名があり,それらにならって明治初期に命名された。
  ・東北/「みちのく」「奥羽」などの呼称もあったが,江戸時代から「東北」とも呼ばれるようになった。
  ・関東/「関」よりも東の地方という意味。関の場所については古代には不破の関,鈴鹿の関だったが,近世では箱根の関,碓氷の関
  ・中部/明治の8地方分割の際,日本の中央部の意味で命名されたが,中部地方という呼称はそれまではなかった。
  ・近畿/畿内(山城・大和・河内・摂津・和泉)とそれに近接する地方の意味
  ・中国/都からみて,遠国と近国のあいだの地方ということで中国。室時代には使われていた。
  ・四国/讃岐・阿波・伊予・土佐の4つの国があった。
  ・九州/筑前・筑後・肥前・肥後・豊前・豊後・日向・大隅・薩摩の国があった。信州や長州などのように「州」は「国」を表す。
 この8地方区分は明治37年国定教科書の「小学地理」で,それまでのさまざまな地方名に変えて制定された。以来,学校の教科書で長く地方区分の基本となってきたが,公的な根拠はなく,首都圏の山梨県が関東地方ではなく中部地方であったり,東海地方として愛知県や岐阜県とのつながりが強い三重県が中部地方ではなく近畿地方であったり,現状とあわない面も多い。とりわけ,中部地方は,便宜上8県を一括りにされたものの,行政・経済・文化などどの面から見て,9県は8地方中もっとも相互のつながりが希薄である。
《10》 市の定義
 あたらしい地方自治がスタートした昭和20年代初頭には市の数は全国で200ほどだったが,現在は約800市にまで増えた。市となるためには,厳格な要件があり,現在は地方自治法地方自治法第8条により,以下のように定められている。
  1 人口が5万人以上を有すること。
  2 中心市街地が形成されており,そこの戸数が全戸数の6割以上であること。
  3 商工業その他の都市的業態に従事する世帯人口が,全人口の六割以上であること。
  4 当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を具えていること。

 ただ,「平成の大合併」が進められた頃は,合併促進のため,これらの要件は大きく緩和され,人口3万以上であれば市への昇格が認められ,2〜4の要件は不要とだった。そのため,盛岡市のベッドタウンとして人口増加が著しい岩手県の滝沢村のように,当時だったら市制施行が可能だったが,現在では2の要件がクリアできず,市にも町にも昇格できない村もある。また,一度市制を施行した自治体は,人口がどんな減少しても,町や村に降格することはない。
 
《11》 政令指定都市の定義
 政令市制度は1965年に始まり,当時は横浜・名古屋・京都・大阪・神戸の6市が指定された。指定都市の要件は地方自治法では「大都市行政の効率化と市民の利便の向上のため,制令で指定する人口50万以上の市」とされたが,実際には人口100万が目安とされてきた。現在,総務省による政令都市指定の要件は次のようである。
   1  人口100万人以上か近い将来にこれを超える見込みのある人口80
   2 人以上の市(市町村合併によるものは70万人に緩和)であること
   3  第1次産業就業者比率が10%以下であること
   4  都市的形態、機能を備えていること
   5  高い行財政能力を有していること
   6  指定都市への移行に関して、所在府県の意思と合致していること


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